節税、出資、投資話…反社会勢力の迫り方を学べ − 巨人選手の野球賭博を嘆く −
東京に限らず、大阪でも名古屋でも番組で「ジャイアンツ大好き!」と言ってはばからない私の声が、だんだん小さくなっている。巨人軍選手の野球賭博事件が泥沼化している。
腹立ちの矛先は、選手はもちろんだが、いまはむしろ球団やNPB(日本野球機構)に向いている。球団もコミッショナーも、いまのところ反社会勢力との関係は不明だとしているが、プロのハンディ師を介在させて胴元が確実にもうかるようにできている野球賭博に、暴力組織がかかわっていないはずがない。
では、彼らはどうやって選手に接触してくるのか。最初から入れ墨で小指がなかったら、選手も警戒する。そうではないから厄介なのだ。もちろん、今度のケースがそうだと言っているのではないことをお断りしたうえで、事件を知って最初に思い浮かんだことを書く。
選手を賭博に誘ったA氏、B氏の当初、報道された職業は、税理士法人勤務と飲食店経営だった。じつは選手が道を踏み外すきっかけで最も多いのが節税、出資、投資話の3つなのだ。
なにしろ20歳そこそこの若者が億の金を手にしたうえ何千万円もの年俸が入ってくる。そこに「黙っていたら税金に持っていかれるだけ」と節税指南の人物が現れる。続いて「知人が出す店に出資してくれたら、売り上げの○割が入ってくる」。そして3つ目が金融商品、先物、未公開株に土地。「年に○%の利回りは堅い」という夢のような投資話を持ってこられるのだ。
そんなやからと親密になるにつれ、この男はバクチなのか、酒なのか、女性なのかと色分けされ、深みにはまったところで反社会勢力が顔を出し、禁断の野球賭博に引きずり込まれる。ここにきてハッと気づいた選手がだれかに相談しようにも、最初に「こんなもうけ話はキミにだけ教えるんだから」とくぎを刺されているから、相談どころか口にすることもできない。
こんな状況なのに、野球機構も球団も「反社会勢力との接触を禁じた野球協約の徹底を図る」なんて建前を言っていてどうするんだ。実社会ではルールブックがないこともある。
「絶対に人に言うな」と言われたおいしい話は「絶対に人に言いなさい」という基本動作を、しっかり身につけてもらうしかないのだ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年10月27日掲載)
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