また使える、まだ使える積み重ねた山本昌投手 − 50歳1カ月登板とラジコン −
50歳1カ月での登板。現役生活32年。7日の広島戦でプロ野球史上初の大記録を打ち立てて引退したドラゴンズの山本昌投手が先週末、東海テレビのスタジオにきてくれた。
奥様が見立てた光沢のあるブルーのスーツに、えんじのネクタイ。すべてをやり遂げたさわやかな男の顔がそこにあった。
登板予定のない投手まで駆けつけてくれた広島戦。思わずこぼした涙。いろんな話題が飛び交うなか、私は「いままでで一番怖かった監督は?」という意地悪な質問をぶつけてみた。「意地悪」というには訳がある。
もう10年近く前、昌さんにやはり東海テレビのスタジオにきてもらったことがある。オンエア前、控室の手前で昌さんの足が止まり、緊張が走った。「オイ、人が悪いな。先に言っといてくれよ」。うろたえるスタッフに「監督だよ、監督がくるなんて聞いてないぞ」。じつはこの日のゲストのひとりは前髪の白髪がトレードマークのT弁護士。「ああ、びっくりした。てっきり星野監督だと思ったよ」。
今回、昌さんにぶつけた意地悪な質問の答えも、もちろん星野監督。「時々、ぶたれました。でも、ぶたれながら、ああ、この人はこんなに俺に期待している。だからぶつんだ。よし、また使ってもらえるぞ。そう思っていました」。
番組からの記念品は当然、趣味というよりマニアといっていいラジコン。「このラジコンと出会わなかったら、とてもこの年まで投げられなかったはずです」。
愛好家は気温、湿度、その季節の風向き。それらを計算したうえでマシンをメンテナンスしていく。
「1円にもならない、アマチュアの趣味の世界。なのに、こうすれば、また使える、まだ使える。みんな本当に真剣そのものなのです」。
ひるがえって自分はどうだ。「プロなのに、きっちり体調管理をしているだろうか。体のメンテナンスもしているだろうか」。
その思いが40歳をすぎてなお、厳寒の季節の鳥取スポーツジムの過酷な自主トレになっていったという。
「ぼくほど幸せな野球人生は、ほかにないと思います」と言ってしめくくった昌さん。また使ってもらえる、また使える、まだ使える。それを積み重ねてきた50歳1カ月。現役生活32年。いっそうズシンと重く感じるのだった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年10月13日掲載)
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