人権配慮のとんでもない勘違い − 愛知ラーメン店殺人 埼玉ペルー人6人殺害 −
凶悪犯の取り扱い、その一方で人権への配慮。この両方で警察は、とんでもない勘違いをしているのではないか。2つの事件でそれを痛感している。
愛知県春日井市のラーメン店で店長を殺害するなどして250万円を奪って逮捕された容疑者(27)は9月28日夜、春日井署で事情聴取中、「任意なら帰る」と言って署を出て、6時間にわたって説得を続けた捜査員を振り切って大阪・岸和田の実家を目指した。この道程、80キロはサンダル履きで歩いたという。
29日深夜に逮捕されるまで、まる1日以上。なぜこんな凶悪犯が町なかを歩くことになったのか。県警は「身柄を拘束する資料がなかった」としている。だが、そんな言い訳が通るのか。
この容疑者が事件後に戻った大阪で事情を聴かれはじめたのは27日の昼。振り切って春日井署を出たのが28日夜。その間、大阪から春日井まで移動させられている。
これのどこが「任意捜査」なのか。「人ひとりを拘束するまでの資料はない」「休憩を挟んだので、拘束ではない」。こんな中途半端な人権感覚が、凶悪犯が町なかをテクテク80キロも歩くぶざまな結果を招いたのだ。
まだある。この事件の半月前、埼玉県熊谷市で挙動不審のペルー人の男(30)を熊谷署が事情聴取中、敷地内の喫煙コーナーから姿を消した。結果、このペルー人は市内で母親と2人の女児、それに中年夫婦、80代の女性、計6人も殺害する大惨事を引き起こした。
埼玉県警の「言動が変だというだけでは身柄の拘束はできない」という説明には一理ある。だが、問題はそのあとだ。挙動不審のペルー人が姿を消したという情報を、どうしてその地域に徹底させなかったのか。
なぜなのか。熊谷から隣の群馬にかけては外国人、それも南米からの労働者が多い。「ペルー人の男」という情報を流すことで、支援団体などから「外国人労働者への偏見、差別につながる」といった抗議がくることを恐れたのではないか。だが、「情報があれば、とくに女性やお年寄りだけの家はしっかり施錠したはずだ」という声に、警察はどう答えるのか。
人権に対して、何に配慮すべきか。何に遠慮してはならないのか。警察全体でいま1度、検討し直すべきではないのか。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年10月6日掲載)
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