“敗戦”の中に多くのものを手に入れた
— 安保法案成立から３日… —
あれから３日がすぎたが、私は負け惜しみではなく、逆に多くのものを手に入れたような気がしている。
安保法制の審議が参院で大詰めとなった18日夜は、東海テレビのニュース番組の生中継で名古屋・栄の抗議集会とデモの中にいた。
その７時間後の19日未明に安保法案は参院で可決成立してしまうのだが、名古屋も雨の中の国会前も、自然発生的にできたＳＥＡＬＤｓの学生や若いママ、連休で遊びに行きたかったはずのＯＬも「勝手に決めるな」と声をあげていた。
８月30日の国会前集会には、12万人が集まった。こんなことは戦後初めてだ。みんなが心をひとつにして怒ったのだ。与党が成立をあせったのは、連休中にこの怒りが爆発するのが怖かったのだ。
怒っている人は、ほかにもいた。15日の安保法案にかかわる国会の中央公聴会。公述人の浜田邦夫元最高裁判事から冗談まじりとはいえ、「なめたらいかんぜよ」の言葉が飛び出したのには、びっくりした。
８、９年前、司法制度改革の流れの中で最高裁が設けた「明日の裁判所を考える懇談会」の委員をさせてもらっていたころ、激務の合間を縫って毎回、会を傍聴されていたのが浜田さんだった。ときには門外漢の私の考えについても、丁寧に感想を述べてくれた。
他の公述人が、たとえ今回の法律に対する違憲訴訟が起きたところで最高裁は違憲の判断はしないだろう、と陳述したことに対して、あの温厚な浜田さんが「楽観的だ。いまの裁判官は大変優秀な人です。なめたらいかんぜよ」と切って捨てたのだ。おお、なんと小気味のいいことか。
怒っている元判事は浜田さんだけではない。山口繁元最高裁長官が違憲だとする見解を示したのをはじめ、75人の元判事も「法案は通すべきではない」という意見書を参院議長に送りつけたのだ。こんなことは日本の司法界始まって以来だ。
その怒りは法の施行を待って起こされる違憲訴訟を判断する、この国の「大変優秀な裁判官」の胸にズドンと響くに違いない。
いかがですか。ほんの一例ですが、私たちは今回、これだけのものを手にしたのです。突然、学生時代、口ずさんだ歌が浮かんできた。♪ああ 闘いはここから ああ 闘いはいまから…
（日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年9月22日掲載）
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