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「きょうはクラスの子全員に声をかけたかな」
ニュースを聞いて、群馬の先生方を思い出した。毎年、秋が深まる11月に群馬県の粕川村(現・前橋市)で講演をして、もうじき25年になる。これだけ長い間、同じ場所に通い続けているのは、もちろんここだけ。新聞記者時代、私たちのコラムを読んでくれていた小学校の先生、桃井里美さんたちが「教育講演会の講師にぜひ」と声をかけてくれたのが、きっかけだった。
そんな先生方とのおつき合いもあって、私は掛け値なし、心底、「教師ほど素晴らしい仕事はない」と言い続けている。それなのに、なぜ…という思いがまた胸をよぎる。
岩手県矢巾町で中学2年の男子生徒(13)が列車に飛び込んで自殺した。担任の先生との生活記録ノートには「悪口を言われたり、首をしめられた」「もう死にたいと思います」と書かれていたが、40代の女性教師はまともに取り合わなかったり、無視。ノートの最後には「もう市(死)ぬ場所はきまっているんですけどね」と書かれていたのに、「明日からの研修たのしみましょうね」と、ひとをオチョクっているのかと言いたくなるような返答。
2011年に大津市で、中2男子がいじめ自殺したのをきっかけに、国はいじめ防止対策推進法を制定した。だけど先生がこれでは、防止も対策もあったもんじゃない。ただし、岩手の女性教師ひとりを責めようというのではない。
桃井先生は志半ばにして難病に倒れ、教壇を降りた。「教師は子どもの顔を見てこそ教師。子どもの顔を見られない教師なんて」。決断するまでの苦悶の日々を知って、私も胸が詰まった。高崎駅からの送り迎えの車の中、いつも先生が口にしていた言葉がある。
いじめを見抜くことは決して難しいことではない。子どもたちが帰ったあと、必ず「きょうはクラスの子全員に声をかけたかな」と振り返る。もし、A君とB子ちゃんに声をかけ忘れていたら、明日の朝、まっ先に声をかける。その時々の子どもたちの顔つきや声の調子。いじめられている子、いじめている子。必ずわかる。自慢ではないけど、必ずわかります─。
法律やシステムではない。地道に、根気よく、こんな先生をひとりでも多く育てていく。それに尽きるような気がしてならない。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年7月14日掲載)
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