追徴金で防犯、安全対策を
— 工藤会の所得税法違反 本来は被害者の金 —
先週は九州の新聞、通信社からのコメント依頼が相次いだ。いずれも北九州の暴力団工藤会の野村悟総長(68)ら幹部4人が所得税法違反容疑で逮捕された件についてだ。
野村総長は幹部3人と一緒になって傘下の組から集めた「上納金」のうち2億円余りが個人所得だったのに申告せずに脱税。こうして上納金をプールした総長の不正蓄財は、じつに22億円に上るという。
暴力団トップに入った上納金について所得税法違反に問うのは異例中の異例。暴力団のアガリに課税されるのは、1960年代に映画にもなった総長賭博のテラ銭以来。野村総長逮捕にこぎ着けた福岡県警の意気は高く、記者発表は吉田尚正本部長が自ら仕切った。
この工藤会、国内の暴力団では唯一、「特定危険暴力団」の指定を受け、これまで漁協組合長の射殺や用心棒を断るスナックのママにまで刃を向ける凶悪組織。「壊滅に向けて大きな一歩」と、福岡県警ばかりか、警察庁の鼻息も荒い。その心意気は高く評価されてしかるべきだ。
とは言いつつ、警察の鼻息をもろに浴びて電話をしてきた記者にくぎを刺してしまうのが、いつもの私。
この上納金、下部組織の組員を3ランクに分けて、月額5万円から20万円を吸い上げるシステム。だけど、組員がどこかに勤めた給料で上納金を払ったなんて話は聞いたことがない。飲食店からのミカジメ料、用心棒代、さらには建設現場の迷惑料。そんな裏稼業さえ持てない末端の組員が薬物の売買や路上強盗、ひったくりといった犯罪に走ったケースは山ほどある。
そこには泣く泣くお金をむしり取られたり、命の危険にさらされながら金を奪われた被害者がいるはずだ。そんなお金がかき集められた上納金を所得とみなして、国が課税する。このミカジメ料からも、このカツアゲからも税金をいただくというが、それは本来、被害者に返すべき金ではないのか。
もちろん、いまさら被害者を特定できないという問題もあろう。だったら、追徴課税された金を被害に遭った地域の町の浄化、防犯、安全対策に使えないものか。そうでないと、お国が善良な納税者に重大な申告漏れをしているような気がしてならないんだけどなあ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年6月23日掲載)
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