恥ずかしい安倍首相の舌先三寸のごまかし
— 安保法制 —
論戦している本人も、聞いている国民も、何をやっているのかわからなくなってくる。つくづく危ない国会だ─。先日に続いて、いま衆院の特別委員会で連日、質疑が行われている安保法制についてだ。
先週金曜、5月29日の朝刊を手に、頭に「?」がニョキニョキ生えてきた。
産経<自衛隊後方支援 首相、「南シナ海」否定せず> 日経<南シナ海 否定せず 首相、後方支援の地域巡り> 読売<首相答弁 南シナ海で掃海想定せず 例外ホルムズ海峡のみ>
前日の国会論議をめぐって各紙でこれほど紙面が違うのだ。質問は維新と民主の議員からそれぞれ出て、維新の「(自衛隊の後方支援の地域は)マラッカ海峡か、南シナ海か、インド洋か」という質問に、安倍首相は「南シナ海で、ある国が埋め立てをしている」とした上で「可能性があれば法律を使えるようにする」と答弁。その一方で、民主の「南シナ海のシーレーンに機雷が敷設された場合、自衛隊による掃海活動はあるのか」という質問に対して、首相は「南シナ海には迂回路がさまざまある」と、活動を否定したのだ。
つまるところ、南シナ海での自衛隊の後方支援について首相は「せっかく安保法制ができたのだから、この法律を使ってやるぞ」と言い、一方で「迂回路がいっぱいある南シナ海でそれはやらないよ」と、本人が意識したかどうかはともかく、2枚の舌を使ってみせたのである。新聞各紙も誤報したわけではない。産経と日経は1枚目の舌を書き、読売は2枚目の舌を取り上げたのだ。
だけどなあ、と新聞を前に、つくづくしみじみ考える。後方支援をあてにしているアメリカは、いざというとき「迂回路があるからやっぱやめますわ」と肩すかしを食らうのではという疑いを拭いきれない。その一方で後方支援を警戒するアジア諸国は「せっかく安保法制ができたのだから」と南シナ海が自衛隊で埋まることを警戒する。
国民の命運がかかり、諸外国が固唾を飲んで見守っている大事な論議。それを舌先三寸でごまかす。結果、どの国も信用してくれなくなるのではないか。安保法制に賛成か反対か以前に、つくづくしみじみ恥ずかしい国という思いが先に立つ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年6月2日掲載)
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