山荒れ 田荒れ 失われる命
— イヌワシの大減少に思う —
テレビ局で夕方のニュース番組の打ち合わせ中、配られてきた東京新聞の夕刊を見て心が暗くなった。
<イヌワシ大幅減少 500羽存続の危機 つがい3分の2に>
記事によると、絶滅危惧種の大型猛禽類、イヌワシの生息数が大幅に減少、つがいは241組、総数は482羽になっているという。過去33年間減り続け、数は3分の2に。北海道から九州に生息する日本を代表するワシ類だが、現在、九州には1つがい。四国では確認されていないという。
喧騒の報道フロアで心は新緑に包まれた鳥取・大山の山系に飛んだ。新聞記者時代、動物大好き、自然が大好きだった私は、初夏のころ、地元のイヌワシ保護団体の方から大山に連なる山の断崖にイヌワシが営巣、いま真っ白な羽毛のヒナが2羽スクスク育っていると連絡をもらった。
なんとしてでも、その真っ白なイヌワシの赤ちゃんの写真を撮って、読者にこの鳥の素晴らしさを伝えたい。だけど、イヌワシはワシ類の中でも狷介孤高、最も警戒心が強い。仲のいいカメラマンを誘って営巣している崖から谷を挟んで反対側の山腹にテントを張って待つこと一昼夜。夜明けとともに狩りに出た親鳥が朝の陽光のなか、獲物の野ウサギを文字通りわしづかみにして、ヒナの待つ巣に運ぶ。待ちかねて餌に飛びつくヒナ。真っ白な羽毛が新緑に映えて、それはそれは美しかった。
だが、そのイヌワシも、このままでは絶滅必至。激減の原因は、植林はしたものの放置されている山林にある。樹木が密生し、数百メートルの高さからでも野ウサギや野ネズミ、蛇を見つけるイヌワシも、これでは餌の探しようがない。結果、生まれたヒナは育たない。
スギやヒノキ、針葉樹ばかり植林したものの、安い外材の輸入で林業は成り立たず、荒れ果てた山林。針葉樹の若芽を食べるシカは激増。逆にブナやナラ、広葉樹がつける木の実が頼りのクマやサルはおなかをすかせて、高齢化と後継者難で耕作放棄になった田畑が広がる里山に下りてきて、結果、いずれも捕らえられたり撃ち殺されている。
動物たちは、この国が間違った方へ、間違った方へと向かっていると告げているように思えてならない。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年3月24日掲載)
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