「パパ、ママ、ここで元気だよ」そんな声を聞くこともできない
— 臓器移植日本の現状 —
3つの重なり合った手。パパ、ママ、そしてU子ちゃん。U子ちゃんの手には、まだぬくもりが残っていた。国内3例目となる6歳未満の臓器移植。重い心臓疾患のため大阪大学病院で幼い命を閉じ、肺や心臓、腎臓が4人の方に移植されたU子ちゃんのご両親は、わが子が脳死と判定されたとき、手を重ね合って、それをカメラにおさめた。
最愛の娘を失い、それでも命のリレーと決意して臓器を提供するドナーとなったご両親。テレビメディアとしては初めて、東海テレビの番組で私のインタビューに応じて下さった。両親のコメントが移植ネットワークによって改変された。実名での記者会見を病院側の判断で中止させられた――。そんな報道ばかりが際立ったが、それは両親の思いとはかけ離れていた。
「臓器移植しか助かる道がなかったU子が命を閉じたとき、私たち夫婦はお互い口にするまでもなく、移植を心待ちにしている方に臓器を提供するドナーになろうと決意していました。お医者さまは、そんな私たちの思いが率直に世間に伝わるか心配して下さっただけで、決して会見をするなとはおっしゃっていません」
臓器移植法が改正されて4年半。だが6歳未満の幼児の移植例は今回を含めてわずか3例。ご両親は移植についてまわる暗いイメージを払拭したかったという。
「お医者さまは肺、心臓など、担当する臓器ごとにあいさつに見え、『本当にきれいな肺ですよ』なんておっしゃってくれて。出発のときは臓器を前に私たちに『お父さんお母さん、U子は元気に行ってきますから』って声をかけてくれて…」
お母さんの目に涙がにじんでいる。だが、日本では、臓器を提供したドナー家族と移植を受けたレシピエントの接触は固く禁じられている。アメリカのようにドナーとレシピエントが出会って「娘さんのハートはここで生きているのよ」と胸に手をあててもらう国とは大違い。ご両親はU子ちゃんの心臓や肺が誰の体の中にいるのかさえわからない。
「パパ、ママ、U子はここで、こんなに元気だよ」。そんな声を聞くこともできない。そのことが日本の臓器移植が遅々として進まない背景にあるのではないか。ご両親は実名を出してでも、そう訴えたかったのである。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年1月27日掲載)
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