再審開始の1歩踏み出せないのか
— 名張毒ぶどう酒事件 —
鈴木泉弁護士(67)の口が重く、疲労がにじみ出ている様子だったのは、インフルエンザが治りきっていなかったせいばかりではないようだった。鈴木弁護士は、1961年に起きた名張毒ぶどう酒事件で死刑が確定、じつに50年以上、獄中にいる奥西勝死刑囚の弁護団長。先週末、名古屋高裁は第8次再審請求で、再審開始を取り消した同高裁の別の部の判決を支持。奥西さんの再審の道は、またしても閉ざされた。
88歳の奥西さんはおととし、一時危篤に陥り、いまは人工呼吸器をつけて寝たきりの状態にある。
東海テレビに生出演していただいた鈴木弁護士は、「裁判所は再審を開始しない理由だけを血まなこになって探しまわっているとしか思えない。今回とりわけ許しがたいのは、検察が証拠を開示しないことを認めてしまったことだ」と、絞り出すような声で怒りをあらわにしていた。
私がこれまで以上に憤りを感じるのも、この点にある。高裁は弁護団の「検察は膨大な証拠を隠し持っている。人ひとりの命を奪う以上、それらを全て開示すべきだ」とする請求を「必要ない」として、一蹴してしまった。弁護団によると、証拠を開示して奥西さん無罪となる新たな証拠をもとにまた再審請求されることを、検察どころか裁判所も恐れているのだという。
先進国を自負する日本で、こんな暗黒裁判がまかり通っていいのか。弁護団の言を待つまでもなく、検察が膨大な証拠を隠しまわるのは、明らかにしてしまったら、その中に奥西さん無罪を証明するものが確実に含まれている。だから、なんとしてでも隠し続けておきたい。そんな本心は素人にだってわかる。違うというなら、堂々と全部の証拠を出したらいい。そんなことをしたら大変なことになるから、ひた隠しにするのだ。
それにしても裁判所はなぜ、これほどまで検察べったりになって暗黒裁判を押し進めようとするのか。奥西さんにもしものことがあったとき、日本の司法にとり返しのつかない汚点が残る。裁判官は、それがわかっていながら再審開始という一歩を踏み出すことはどうしてもできないのか。
奥西さんは明日14日、89歳の誕生日を迎える。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2015年1月13日掲載)
|