シベリアの抑留兵の声…今聞いておかなければ
— 「集団的自衛権」受けABCが特集 —
大阪の朝日放送(ABC)の伊藤史隆(しりゅう)アナウンサーから、自宅宛てに手紙をいただいた。史隆さんといえば、阪神タイガースや高校野球に限らずスポーツを語らせたらなんでもござれの名アナだが、3年前から私もコメンテーターをしている夕方のニュース番組「キャスト」のメーンキャスターをされている。
<その後お体、いかがですか。正直、心配ですが、あまりそれを言うと大谷さんに怒られそうなのでこのへんでとめておきますが…>
そうなんです。じつは私、不摂生がたたって体を壊し、先月末からこの「キャスト」をはじめ、テレビ出演をしばらく休ませてもらっている。だけど史隆さんの手紙は、単にお見舞いだけではないようだ。
<8月7日、番組でシベリア抑留兵を取り上げます。じつは今年6月に京都の舞鶴にあるシベリア引き揚げ関連の資料が世界記憶遺産の候補になったこと。さらに7月になって集団的自衛権容認が閣議決定されたこと。これを受けて大谷さんが出演される木曜日の特集にしたいと僕が企画し、取材を進めてきました>
そんな特集があるときに出演できないふがいなさと申し訳なさが募ります。
<この間、90歳になんなんとする方、5人のお話をじっくりうかがってきました。この方たちの平和への願い、そしていまの世の中の危うさを憂う気持ちをしっかりと受け止めてきたつもりです。でも、集団的自衛権で他の国の戦闘に加わることになったら、また、この国の人々が外国に虜囚として捕われる危険がある。そのことを今一度、考えるべきではないでしょうか。取材した5人がそろっておっしゃった「戦争はしてはいかん!」。この思いをしっかり伝えようと思います>
その7日の放送は、自宅でじっくりと見ることができた。いま、この方たちの声を聞いておかなければ、失礼ながら、もう2度と生の声を聞くことはできないかもしれない。語ること、語り続けること、語り継ぐことに生きておられる史隆さんの思いがひしひしと伝わってくるようだった。
そして私も一刻も早く語り継ぐ側に復帰しなければ―。1通の手紙に突き動かされる、敗戦から69回目の夏である。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2014年8月12日掲載)
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