なんとも甘っちょろい企業の感覚
— ベネッセ大量情報流出 —
朝刊を読んでいて「ありゃ、わが家もだ」と、思わず声をあげてしまった。大量の情報が流出したベネッセ。その発行書籍の一覧を見ていたら、なんと「いぬのきもち」があるではないか。この雑誌は郵送による定期購読のみ。妻に聞くと、プードルという犬種から年齢、飼い主の名前まで全部書き込んで申し込んだという。
いまのところ、流出は子どもに関する情報だけ、とベネッセは説明しているが、子どものいないわが家が、このヤンチャ坊主の愛犬がもとで情報を出してしまったとなると、なんだか居心地がよろしくない。
とは言え、わが家などはまだましだ。長らく報道に関わっていると、事件や事故、災害で幼いわが子を亡くされた両親のもとに、ある日突然、ランドセルや成人式の晴れ着の案内が届く場面に出会う。「あの子が生きていたら、もう小学生」「同い年の娘さんは、今年が成人式」。親御さんはまた、新たな涙をあふれさせる。情報はときとして、人の心をざくりと傷つけることもあるのだ。
延べ1億件もの情報を250万円にすぎない金で売り飛ばしていた39歳の男が逮捕されたが、驚くのは、ベネッセは顧客情報の管理を下請けに委託。その下請けがさらに孫請けに再委託。流出は、そこに出入りしていたギャンブル好きな派遣社員の犯行だった。
私は随分前から、現代社会は通貨というお金と情報で動いていると言い続けてきた。なのに、いくら経費節減のためとはいえ、ひとつ間違えば個人が丸裸にされる情報の管理を孫請けの派遣社員に任せている。これではいくら本社が企業倫理だ、コンプライアンスだと叫んでも、そんな声が届くわけがない。
事件を受けて経産省は業者に管理の徹底を指示したが、なんとも甘っちょろい。情報収集企業には、本社に一元化した管理を義務づけない限り、再発防止なんて絵に描いた餅だ。
と、ここまで書いたら、わが家のヤンチャ坊主が「なんだかきょうはボクをチラチラ見ているなあ」と不安げに足元にすり寄ってきた。心配するな、きょうはお前がきっかけで、こうして「おれのきもち」を書いているだけだから――。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2014年7月22日掲載)
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