内向きにならず打って出ようぜ!
— TPP基本的には賛成 —
連休中も仕事、仕事だったと言いながら、じつはそのうちの一つは、東海テレビの取材で足を延ばして山口県の山あいの酒蔵の「獺祭」を訪ねて桜井博志社長をインタビューすること。酒飲みが仕事にかこつけてと言われれば、その通りだけど、1度は訪ねてみたいと思っていた酒蔵だった。
先日、来日したオバマ米大統領への安倍首相のお土産は、この獺祭。それに欧州を歴訪した首相のロンドン金融街シティーの夕食会で出されたお酒も獺祭。そう聞けば、えっ、どんなお酒と興味をそそられるが、もうひとつ。たいていのことに文句を垂れている私だが、TPPには基本的には賛成なのだ。今後も保護されていく米などは別にして、大幅に関税が引き下げられる牛や豚の畜産農家はしんどいことになると思う。だけど、いつまでもそんな内向き、内向きでいいのか。それが獺祭を訪ねた理由でもある。
この獺祭を製造する旭酒造を3代目の桜井さんが継いだときは、つぶれかけた酒蔵。だが、酒米の山田錦を極限といわれるまでに精米。「酔うため、売るためではなく、味わう酒」にこだわって、山口の人里離れた酒蔵が昨年は純米大吟醸の出荷量ではついに全国トップ。いまでは世界20カ国に輸出、この夏には、獺祭パリ店もオープンさせるという。
とはいいつつ、和食ブームだ、世界遺産だと言われながら、フランスのワイン輸出額7740億円に対して日本酒はわずか90億円。だが、獺祭をこれから増産していくにも、肝心の山田錦が足りない。値の高い山田錦に生産意欲を持っている農家も多いのに、これまでは減反、減反の規制ばかり。桜井さんは「結局は国が農家から、やる気も実行力も奪ってきた」と言う。
それにしても、「蔵」というイメージからほど遠いシステム化された工場でいただいた搾りたての純米大吟醸のうまいのなんのって。
あれをされたら日本はやっていけない、これをされたら参ってしまう。いつまでもそんな内向きなことを言っていないで、打って出ようぜ——目にしみる山口の若葉は、そんな元気に萌えているようだった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2014年5月13日掲載)
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