座り心地悪い社会だなぁ
— 全盲の友人が杖折られ —
連休の谷間、このコラムに時々登場する全盲の飲み友達、Hさんとバーのカウンターで並んでいると、「ひどい目に遭いましてねえ」と、珍しくグラスを持つ手が震えている。
夜道を白つえを頼りに家に急いでいると、歩道上を2列になっておしゃべりに夢中の女子高生の自転車がかなりのスピードで突っ込んできた。幸いHさんにケガはなかったが、白いつえは先がポキリと折れてしまった。
このつえを折られてしまったら、盲人はどっちに向かって歩いていいのかさえわからない。女子高生は「すみません」とは言ったものの、そばに立っているだけ。だが、幸いなことに吉祥寺署のおまわりさんが通りかかった。「とにかくここにいて下さい。ガムテープを交番から取ってきます」と言って待つこと10分。警官は「これを添え木にしましょう」と、数本の割り箸まで持ってきてくれて応急措置。これが見事な出来ばえでHさんは胸を撫で下ろした。いいぞ、吉祥寺のおまわりさん!
「女子高生を処罰してほしいなんて思ってません。でもね、つえを折られるということは僕らにとっては大ケガに等しいんです。それに音もなく歩道を走ってくる自転車は車より、はるかに恐怖の対象なんです」
とは言え、折れたのはつえ。ぶつかってきたのは自転車。2人の女子高生が事故の責任を問われることはなく、警官の注意を受けて立ち去って行ったという。
Hさんからこんな話を聞く数日前、愛知県で当時91歳の男性が列車にはねられて死亡した事故で、JR東海が輸送の混乱などで生じた損害の賠償を妻(91)らに求めた裁判で名古屋高裁は、家の玄関にセンサーを設けるなどして認知症の夫を監視する責任があったとして、妻に360万円を支払うよう命じた。
妻は事故当時84歳。どこまで徘徊癖の夫を監視できたのか。のしかかってきた負担を思うと気が重くなる。
その一方で、そこのけそこのけの自転車にスマホや携帯のながら歩き。自己責任と事故責任。なんだか座り心地の悪い社会だなぁ、という気がしてならない。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2014年5月6日掲載)
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