STAP細胞は「アホ」の発見なのか
— 故・森毅京大教授の言葉 —
STAP細胞をめぐる一連の騒動を連日のように報道しながら、この間、私の頭を離れなかったことがある。4年前、お亡くなりになった一刀斎こと京大教授だった森毅先生である。民放の番組審査会でご一緒した休憩時間の雑談で、なんの気なしに「ノーベル賞の受賞者は、なんで東大ではなく、圧倒的に京大が多いのでしょうか」と聞いたときのことだ。
先生は「そりゃキミ、アホの数だよ。東大に比べて京大の方がはるかにアホが多いっちゅうこっちゃ」と言って、いたずら小僧のようにニコッと笑われたのだ。東大も京大も、もちろん優秀な学生が集まってくる。すると、ある程度勉強すると、たいていのことはわかってしまって、なんだかつまらなくなってしまう。だが、東大の学生はそれでもコツコツと地道に勉学を続ける。ところが、京大の学生には突拍子もないことを考えだすアホがいる。これまでその分野では定説とされてきたこと、学説となっていることに「それってホンマなんやろか」と無謀にも挑戦してみるアホが出てくる。
たいていは頓挫してしまうのだが、なかには、それまでの定説を覆すものも出てくる。もちろん論理の組み立て方や推論には乱暴な面もあるが、それがびっくりするような新発見につながっていくのだという。どの分野でも、世界中の研究者が日夜しのぎを削っている。なまじの発想では、とてもとてもノーベル賞クラスの発見はできない。
「要は、そういうことに挑戦してみようというアホがおらんとダメなんや。そのアホの数では、京大は絶対に東大に負けてへんちゅうこっちゃろな」
そう言って、先生はじつに愉快そうに笑われたのだ。
STAP細胞は「あります!」と断言する小保方さん。「それが存在しないと説明がつかない合理性の高い仮説」とする理研の笹井副センター長。片や論文は撤回すべしとする理研上層部。うたかたの夢の新発見だったのか。それとも取り逃がしてはならない大魚なのか。ごく普通のアホと自負している私は固唾を飲む思いで見ているのである。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2014年4月22日掲載)
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