陰険で凶悪な闇社会間違いなく存在
— プロの犯行極めて高い —
多くの人が1度はお店に入ったことがある。行ったことはなくても、町のあちこちにある看板は見たことがある。そんな「餃子の王将」の大東隆行社長(72)が、まだあたりが真っ暗な冬の早朝、会社の前で射殺された。なじみのある大きな外食チェーンの社長が殺害された事件とあって、テレビや新聞から次々にコメントを求められた。
ただ、この事件は、これまでの企業トップを狙った犯罪とはいささか違う。それだけに捜査は難しいかもしれない。それに、こうした犯罪はじつは未解決に終わっていることが多い。
とは言え、たとえばグリコ・森永事件は、明らかに金を脅し取る目的だった。銀行の副頭取や支店長を狙った犯行は不正融資や地上げ、不良債権の処理、背景にトラブルがあった。建設会社がらみには、入札や下請け参入の問題があった。犯人は捕まらなくても、その目的はおよそ見当がついていた。
だが、今回の事件は、やや違っている。会社が大きなトラブルを抱えていたら、社長をこの時間に1人で出社させることはあるまい。会社やチェーン店に恨みがあったら、餃子に異物を混入させるといった犯行の方が会社にとってダメージは大きい。社長を殺害したところで各店舖がその日、店を閉じることはない。
ただ、はっきりしていることは、目的のいかんを問わず、反社会勢力がかかわっているということである。犯行は入念な下見を重ねたヒットマンによるものと思われる。社長が車をロック、車内に逃げ込めないことを確認してから落ち着いて4発を発射、致命傷を負わせている。誰かに指示されたプロの犯行の可能性が極めて高い。
それに拳銃は反社会勢力、闇の社会の力を借りずには手に入らない。金を出せば市場で手に入るというものではない。ということは、会社も社長も、ここまで発展するとは考えていなかった社内的ないざこざ、600店に及ぶ出店先のトラブル。それに反社会勢力がかかわった。こうしたものがなかったかどうか、それを精査することが捜査のポイントになるのではないか。
この「王将」事件の翌20日には、拳銃発砲事件が全国一の北九州市で漁協組合長がやはり拳銃で射殺されている。
事件が相次ぐ中、忘れてはならないことがある。こうした事件が起きると、私たち取材者を含めて、犯人像や犯行の目的に目が行ってしまいがちである。だが、大事なことは、何事もなく静かに暮れていくように見える年の瀬、そんな私たちの社会にも奥底にどす黒く、陰険で凶悪な闇の社会が、間違いなく存在しているということである。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年12月24日掲載)
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