帳簿の独占には必ず不正が生まれる
— 長野県建設業厚生年金基金24億円横領 —
長野県建設業厚生年金基金の金、約24億円を横領、タイに逃走していた元事務長の坂本芳信容疑者(55)が現地で身柄を確保され、日本に強制送還されることになった。私が出演しているテレビ番組も連日、「この巨額な金はどこに行った」と、現地からの情報をまじえて報道している。
それにしても24億円。坂本容疑者は拘束当時、食事代にも困っていた。バンコクの女性に貢いでいたという話もあるが、それも日本円にして600万円。逃走3年で全額使い切ってしまったとは、とても思えない。私は背後に糸を引いている裏社会が存在しているように思えてならない。
ただ、巨額横領事件というと、どうしても2001年に発覚したチリ人妻の事件を思い出してしまう。青森県住宅供給公社の当時40代の経理主幹が、こちらも14億円という巨額な金を横領、チリ人の妻に貢いでいた。妻はさっさと帰国してプールつきの豪邸をぶっ建て、あきれて笑ってしまうしかないようなド派手な生活。それにくらべて今回の事件は、坂本容疑者も、その周辺もなんともショボイ。
ただ、両方の事件に共通するのは、事務長と経理主幹。いずれも長年にわたって1人で金を管理、上司に当たる人は寄せ集め団体のまわり持ちだったり、お飾り的存在。その弊害がもろに出たのだ。
こんな事件を報道しながら、少し飛躍するけど、亡くなられた筑紫哲也さんがあるとき、政権交代の意義について「ひとことで言うなら、それは相手の帳簿を見られるということです」と語っておられたのを思い出した。
政権交代によって自分たちが政権に就くことで、それまでの政権がつけていた帳簿が手に入る。「あの連中はこんな金の使い方をしていたのか」「こんなところに金をばらまいていたのか」「この金の使い道が書かれていないじゃないか」。交代前の政権がしていたことが手に取るようにわかり、それが国民の前にさらけ出される。そういうチェックが入ると思うからこそ、ときの政権政党は緊張する。
筑紫さんは、1人の人間、1つの政権が帳簿を独占し、だれのチェックも入らなければ、そこには必ず腐敗や不正が生まれるということを言いたかったのだと思う。
そんな中、政権政党の自民党は先日、私が「こんな危ない法律はない」と書いた特定秘密保護法案を審議入りさせた。特定秘密に指定したら30年、それも、ときの政権が「延長」と決めたら永遠に秘密にできるこの法律。いまの政権政党がまっ先に特定秘密にしたいのは、じつはそんな帳簿の数々だったりして…
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年11月12日掲載)
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