「大きいことをいいことに」
— 「特定秘密保護法案」国会提出 —
「大きいことはいいことだ」なんてCMをひっぱり出したらふるーいと言われるに決まっているけど、いまはまさしく「大きいことをいいことに」やりたい放題。こんな危ないことはない。
巨大与党となった安倍政権は先週、国民の多くが危惧している「特定秘密保護法案」を閣議決定、国会に提出した。何を危惧しているのか、ここで挙げだしたらキリがないのだが、26日に朝日新聞が掲載したその全文を読んで、先日CS朝日のテレビ番組でご一緒した海渡雄一弁護士(余計なことだけど前社民党党首・福島瑞穂さんのご主人)が「これは危ない法律ではない。怖い法律だ」と言っていたことをあらためて思い出した。
その24条には「行為の遂行を共謀し教唆し又は煽動した者は5年以下の懲役に処する」と明記されているではないか。事件報道に関わっている者なら知っていることだが、日本の刑法は61条で、教唆犯は「犯罪を実行させた者」、つまり唆しただけでは罪にならないと規定している。実際に犯罪が行われて初めて罪になるとしているのだ。だが、この秘密保護法は犯罪が行われたかどうかに関わりなく、「こんなことをしてほしい」と言っただけで逮捕されてしまうのだ。
これを「独立教唆」というのだが、それが盛り込まれていたのが、当時の自民党の議員の中でさえ「戦前の治安維持法ではないか」と反対する人が多く、結果、2005年に廃案になった共謀罪だ。酔っぱらって「あの課長、絶対明日ぶん殴ってやる」「おお、それなら俺も仲間に入れろ」と言っただけで捕まってしまうと言われた共謀罪。そんなとんでもない規定をこの秘密保護法の中に、ちゃっかりもぐり込ませているのだ。
記者が、政府が公表しているより米軍のオスプレイの数が多いのではないかと疑念を抱いて「正確な数を知らせてほしい」ともちかける(教唆)。断られたので「市民の安全のためにもぜひ」と説得する(煽動)。これだけで、記者は記事にしていなくても逮捕され、5年以下の懲役が科せられてしまう。
こんなとんでもなく危ない法律なのに、審議する特別委員会の委員40人のうち自民党が25人。民主や維新の委員の中にも賛成にまわる人がいるとみられていて、まさに「大きいことをいいことに」これまた自民党が巨大与党の国会で成立は間違いなさそうな情勢だ。だけど原発の汚染水の問題しかり。数の多い方が「危なくない」と言ったらそれでいいのか。
とはいえ、そのうちこんなことを書いただけで「煽動だ」なんて言われたりして…。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年10月29日掲載)
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