成功は「反対の声」に耳を傾けること
— 2020年東京五輪決定 —
その瞬間、フェンシングの太田雄貴選手が顔をくしゃくしゃにして涙ぐむ姿がテレビに大写しになった。早朝、私も画面に向かって何度も拍手した。2020年五輪・パラリンピックの開催地は東京に決まった。あの東京五輪から49年、7年後の開催は、じつに56年ぶりになる。
「いつから宗旨変えしたんですか」なんて、まるで私は五輪に反対で当然といった声を聞きながら、このところ、ずっと「2020年五輪は絶対に東京へ」と言い続けてきた。常日ごろ、「子どもたちには、ぜひ何かスポーツを」と言いながら、1964年、私が大学1年だったあの東京五輪から49年。子どもたちはもちろん、50歳代後半の人しか自分の国で開催された五輪を知らない。これでは、いかにも寂しいじゃないか。
はっきり言って、この国には辛いことが多い。2年半前の東日本大震災。それに伴って、私たちは原発事故という大変な間違いを犯してしまった。その前には阪神・淡路大震災もあった。竜巻もあれば、火山の噴火、局地豪雨もある。
この20年間は失われた20年と称され、20歳以下の人たちは活況に沸く日本を見たことがない。社会の中の格差は広がるばかりだ。だからこそ、楽しいこと、夢のあることに向かって進みたい。子どもたちに世界中からお客様を迎える日本を見せてやりたい。
だけど、いま私たちは浮かれているときではない。大事なことは「五輪に反対」と言っている人たちの声にしっかり耳を傾けることだ。
東日本大震災の復興もままならないのに、なぜ五輪なのか。競技場造りに、高速道路、それにリニアモーターカーの前倒し開通。国と地方を合わせて、すでに1000兆円もの債務があるのに、この上、また子どもたちに借金を背負わせるのか。放射能汚染が解決できない上に、これまでのように国が実態をひた隠す。そうなったら、不参加の国が続出して国際社会での日本の信用は地に堕ちる。
まだまだある。「安全、安心の都市」を強調してきた手前、テロ対策に治安の維持。国民のプライバシーは剥ぎ取られ、外国人には警戒の目。加えて繁華街の浄化作戦も強化されるはず。そんな息苦しい東京は、まっ平ごめんだ。
これらは決してへそ曲がりの人の声ではない。だからこそ、この先、私たちがやらなければならないことは、こうしたことを1つ1つ、丹念に丁寧にクリアしていくことではないのか。
奇跡的に晴れわたった青空にブルーインパルスが、くっきりと5つの輪を描いたあの日の再来を夢見て─。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年9月10日掲載)
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