無実の叫び 耳を貸す気ないのか
— 強制わいせつ事件 再審請求審 —
電車内で痴漢行為をしたとする強制わいせつ事件の再審請求審で、裁判所が元被告のKさん(71)から法廷で事情を聴くという異例の審理に、これは再審開始決定か、と期待したが、見事に裏切られた。言うだけむなしいと思いつつ、裁判所は、人生残りわずかになって、なんとしてでも汚名だけはそそいでおきたいと願う人の叫びに耳を貸す気はまったくないのか。
Kさんのことは、私が数年前まで出演していた「スーパーモーニング」(テレビ朝日系)で何度も取り上げたので、再審の行方を注目していた。
2005年3月、元小学教師のKさんは、趣味の仏教講座を聞いて帰宅途中、西武池袋線の電車内で女性の体を触ったとして、別の乗客に取り押さえられた。
それまで実直一筋の元小学教師が仏教講座の帰りにまさか…という先入観はひとまず振り払ったとして、この事件はおかしなことばかりだった。Kさんは教師時代から強皮症という難病で指が曲がらず、チョークも持てない状況だった。だが、女性の訴えは「下着の中で指で触られた」。さらに女性もKさんを取り押さえた男性も、犯人の顔は見ていなかった。加えて女性が目撃した犯人のコートとKさんのコートは丈が違う。
また、一審の審理の中でKさん側が、警察が鑑定したとされる女性の下着とKさんの指の繊維片鑑定の結果を提出するよう厳しく求めると、検察は「じつは鑑定は失敗だった」。ここまで聞いたら、だれしもKさんの犯行ではないと思うところだが、わが日本国の裁判所は違う。
なんと裁判所の判断は、被害女性たちの証言を信用性があるとしたうえで、驚くことに「人差し指では不可能でも、中指なら犯行は可能だ」。断っておくが、Kさんが裁判官の前で中指を動かしてみせたわけではない。結果、最高裁で懲役1年10月という厳しい刑が確定。無実を叫びながら服役したKさんは、獄中から再審を求めた。
その再審審理でも、東京地裁は「無罪とする新たな証拠はない」として、請求棄却。そもそも痴漢事件は警察、検察にとっても証拠の乏しい難事件だ。それをある日、降ってわいたように痴漢の犯人とされた一市民に「やっていないと言うなら、自分で証拠を探して来い」。それとも「今回は話を聞いてやっただけでもよしとしろ」と言うのか。
画面でしかお目にかかったことはないが、元の教え子からも再審を願う署名がたくさん届いたというKさん。汚名をそそげずに、このまま老いていかれるのかと思うと、ただただ心が痛む。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年9月3日掲載)
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