権力の側だから無罪放免なのか
— 富山の老夫婦殺害事件 元警部補不起訴 —
私たち、市井の人間が「やっていない」といくら声をあげようと、絶対にそんな主張は通らない。だけど、ひとたび権力の側に身を置けば、いくら「やっています」と自白しても、「いやいや、お前がやったとするわけにはいかんのだ」と無罪放免にしてもらえる。この極暑のなか、はらわたが煮えくり返るようなことが現実に起きている。
2010年4月、富山市で会社役員の老夫婦が殺害され、自宅ビルに放火された事件で、昨年12月に逮捕された当時富山県警の現職警察官、加野猛元警部補(54)。この元警部補について富山地検は先週、「自白内容と証拠に食い違いがある」として、不起訴にした。元警部補は暴力団に捜査情報を漏らしたとする別の事件の判決で執行猶予がついたため、自由の身となって堂々と報道陣の前に姿を見せた。
元警部補が老夫婦の事件で起訴されたら、2人以上殺害の放火事件。判決は死刑が予想された。現職警察官の死刑事件は、現刑法下での犯罪史上初。だが事件は被疑者を目の前にして闇の中に放り込まれてしまった。被害者の遺族が「こんなことがまかり通っていいのか。即刻、検察審査会に申し立て、市民裁判員に裁いてもらいたい」と怒りに声を震わせるのは当然だ。
この事件、発生の2カ月後に犯行声明文を記録したCD-Rが東京の出版社に届いていた。だが、県警は「連絡したけど、見せてもらえなかった」として、記録の押収さえしていなかった。また、被害者と親しかった元警部補から事情は聴いたとしているが、事件当日のアリバイは「聞きそびれた」。元警部補の調べが難航することは予想されたのに、自白を録音、録画する可視化はなし。一体、どんな自白をしたのか、知っているのは警察、検察だけなのだ。
うがった見方をすれば、2年半もたってから逮捕した元警部補が証拠と合わないデタラメを“自白”したら、晴れて無罪放免ということなのか。
この不起訴の少し前、大阪府堺市で、盗んだカードでガソリンを給油したとして会社員(42)が逮捕され、否認したのに85日間も勾留された。だが、実は証拠となった映像を記録した防犯カメラには、数分間の時刻のズレがあった。「身に覚えがない」という夫を信じた妻や弁護士の奔走で、やっと無実が明らかになった。
警官は自白しても「証拠と合わない」。市民は必死に否認しても、デタラメな防犯カメラの映像を根拠に「証拠があるんだ」。お隣のことを「恐ろしい国」なんて言っていられない。市民にとっては、真夏に寒気がしてくるような国なのである。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年7月30日掲載)
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