吉田さんの決断胸に…未来への1票を
— 参院選目前 テーマは経済だけか? —
いよいよ今度の日曜日、21日は参院選の投開票日。来週、このコラムが載るときには、すべての結果が出ている。猛暑の中の選挙戦、この間にあった大きな出来事というと、私は8日、原発の新たな基準が設けられ、電力4社が計10基の原発の再稼働を申請したことだと思う。その申請の翌9日、あの3・11震災で過酷事故に陥った当時の福島第一原発所長、吉田昌郎さんが亡くなった。58歳だった。
東日本大震災の発生直後、私はテレビの特番につぐ特番、それにレギュラーのニュース番組に追われ、吉田所長が東電本店や首相官邸の意向を黙殺して原子炉に海水の注入を続けたことは、あとになって知った。その判断がなかったら、事故はもっと苛烈なものになっていたことは多くの人が認めている。混乱の中、闇雲に指示を出してくる本店にテレビ電話で「ディスターブ(妨害)しないで下さい」と声を荒らげた映像を見たのも随分あとだった。
今回の選挙で気になっていることがある。アベノミクスに象徴される景気対策や、社会保障が争点と思う人が多いのは理解できる。だが、各種世論調査によると、原発の廃止か稼働かを重要なテーマと考えている人は、これにくらべると、はるかに少ない。でも、私たちは後世に向けていま、一つの方向性を示すときではないだろうか。
私自身、原発問題について揺れている。まわりに人ひとりいない帰還困難区域に運転手さんとたった2人で立ったときは、「なにがあろうと、もう2度とこんなことをしてはならない」と全身を凍りつかせながら考えた。その一方で、選挙期間中の記録的な猛暑。エアコンなしでの生活は考えられない。電力供給は綱渡りが続く。
戦争をしたわけでもないのに、国土を失う愚か者がどこにいるかと思う半面、では原発ゼロにして、いますぐ自然エネルギーが降ってわいてくるわけでもなし、という思いが交錯する。だが、原発推進にしろ、ゼロにしろ、いま判断しておかないことには、向こう3年間、選挙はない。その間に、エネルギー政策はどんどん先に進んでしまう。そのときになって「しまった」と思っても、もう遅い。
亡くなられた吉田さんを英雄視する気はない。だが、社命に背いて海水の注入続行を決断したとき、吉田さんは、同時に東電の社員としての自分の将来を捨てることも決断したはずだ。
21日の投票日、どの党に、だれに、1票を投じるかを決断するとき、がんに逝った吉田さんの、あの日の決断も瞬時、胸に浮かべてみたい。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年7月16日掲載)
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