キャスターと政治家の火花散らす対決見たい
— 投票行く気うせるスカスカ選挙報道 —
参院選の真っ最中である。この期間、私たち、ものを書いたり、しゃべったりする仕事は実にやりにくい。そこで今回はそれを逆手に取って、「やりにくくていいのか」というお話。
先週、自民党がTBSに対して、党幹部の取材を拒否すると通告した。問題としたのは、選挙公示のだいぶ前、先月26日の「NEWS23」で伝えた通常国会閉会時、電気事業法改正案などが廃案になったニュース。その構成が「廃案の責任を与党にのみ押しつけるものになっていた」と反発。抗議文を出したが、TBS側が「番組はバランスを欠いていない」と訂正に応じなかっため、取材拒否に至ったという。
これに対して野党は、選挙期間中に格好の与党攻撃材料が降ってきたとばかりに、「権力の横暴」(民主・細野幹事長)、「言論で反論すべき」(共産・志井委員長)「子どもじみている」(みんな・渡辺代表)と一斉に反発。
あわてた(と思われる)自民党は、選挙期間中に敵陣に格好の材料を与える愚か者がいるかとばかり、たった1日で取材拒否を撤回。安倍総理は「局が謝った」とし、TBS側は「抗議を受けたが、謝罪はしていない」と曖昧なまま、ことは決着した。
ただ、こうして政権政党は、ちょっとでも気に入らないことがあると取材を拒否。それを知った野党は「権力の本質が見えた」と格好の攻撃材料にする。その結果、選挙報道、特にテレビはまったくおもしろみのない、スカスカなものになっている。
各党の主張を紋切り型に羅列。およそ1議席も望めない政党の公約も紹介。その党にとっては、当落と関係なく格好の宣伝の場になっている。そして最後に「みなさん、必ず投票に行きましょう」。こんな番組を流しておいて、そりゃないよ。逆に投票に行く気も失せるというものだ。
ただ、今回の件で思い出したことがある。いまも戦後一番人気の宰相といわれる田中角栄元総理は「何を言われても訴えたり取材拒否はしない。角栄と坊さんの木魚はボコボコ打たれているうちが華だ」。「NEWS23」の初代キャスター筑紫哲也さんは「あることないこと言われますが、取材を拒否したり、裁判に持ち込むことはありません。私には反論するペンも言葉もあるからです」。
こんな政治家とキャスターが火花を散らしてやり合ったら、選挙報道も随分とおもしろくなるだろうにな。とは言いつつ、政治家のみなさん、私ごとき者がこんなことを書いたからといって、取材拒否なんてしないでね。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年7月9日掲載)
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