まずは助かる生き残る
— 巨大地震 食料備蓄も大切だが —
毎週木曜日に出演しているメ〜テレ(名古屋市)の朝の番組、「ドデスカ」(月〜金午前6時)のスタジオに並べられた備蓄品の山を見て、「こりゃ無理だろう」とため息が出てきた。南海トラフ巨大地震の対策を検討していた有識者会議が「家庭で1週間分以上の備蓄を」とする最終報告書をまとめた。ならばと、この日、1人あたりの1週間分の備蓄品を並べてみたのだ。
パンやアルファ米など21食。水は21リットルで、2リットル入りペットボトル10本以上。非常用トイレシート20枚。カセットこんろ。それに缶詰や毛布。並べてみると畳半畳分はある。これが4人家族だったら一体、家のどこに置いたらいいのか。3DKのマンションの方だったら、いつ来るかわからない巨大地震のために1室の半分を備蓄品に占領される。
報告書によると、これほどの巨大地震になると行政の支援は発生後1週間は期待できない。だから、その間はなんとか自助努力で、ということなのだそうだ。なるほど「備えあれば憂いなし」か、と思いつつ、なんだかおかしい。
報告書によると、この地震による被災者は950万人、死者は32万人に上ると予測している。だとすれば、まずこの死者数を少しでも減らす対策を優先させるべきではないのか。阪神・淡路大震災の取材の経験からすると、死者の7、8割は家屋や家具の倒壊で即死状態だった。それに備えて家の補強、家具の倒壊防止装置の設置。そのことによって、どれほど死者を減らすことができるか。また、津波については東日本大震災の経験から、逃げるしかない。そのためには、ガラスやがれきで足を怪我しないように靴を寝室に置く。それにヘルメットの常備。それがどれほど大事か。
もちろん、備蓄品なんていらないと言っているのではない。だけど、取材した阪神・淡路、中越、東日本の大震災から私が学んだことは「助かれ。命さえあれば、なんとかなる」である。少なくとも、せっかく助かったのに餓死や脱水で亡くなった方を取材した記憶はない。なのに、この報告書を受けた新聞、テレビの報道を見ていると、「食料は飽きがこないように補助食も」などと呼びかけている。ピントがずれていやしないか。
人間は、おむすび1日1個でも相当生きられる。どうも、この「備蓄品を用意しろ」の大号令、国や行政の力不足を個人の自己責任に負いかぶせているような気がしてならないのだ。「わが家は2日分の備蓄しかないけど、大丈夫か」。そんな「備えあっても憂いあり」なんて、とんでもない。まずはみなさん、何があっても生き延びましょうね。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年6月4日掲載)
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