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TVで初めて言った「吐き気を催す」
— 日本兵を女性を米兵を侮辱した橋下発言 —

 長年、テレビで人さまの発言についてコメントしているが、初めて「吐き気を催す」とまで言った。日本維新の会共同代表、橋下徹大阪市長の慰安婦発言である。事実関係とか、歴史認識の問題ではない。人間と性についての根源的な受け止め方である。
日刊スポーツの実際の記事画像
 「銃弾が雨嵐と飛び交う中で命をかけて走ってきたとき、慰安婦制度が必要だったというのは誰だってわかる」。もちろん人に性的欲望があることはそれこそ誰だってわかる。だが、それは男性にとっては、いつも捌け口であり、女性は常にそれを受ける身なのか。女性ばかりか、男性に対してもこれほどの侮辱があるだろうか。

 南の島に、極寒の荒野に散って、鴨居に軍服姿の遺影が掛けられた夫、父。その凛々しい姿を誇りに戦後を歯を食いしばって生きてきた妻や子。だが、その父や夫は、妻や娘と同性の女性をただ、性の捌け口として、自由を奪われた体にのしかかっていたとされたら、妻や娘にとってこれほどの屈辱はない。心ならずも命を落とした兵士にとって、こんな侮辱はあるまい。

 橋下さんが性について、そんなふうにしか捉えられないとしたら、言っても詮ないことだ。だが、沖縄にまで行って、米軍の司令官に「風俗を活用しろ」と得意気に披瀝してきたと知って、恥ずかしくて恥ずかしくて全身の毛が立ってくる。夜のとばりが降りるころから懸命に働きながら、性の受け皿とされた沖縄の女性たちに、これほどの屈辱があるか。愛する妻や子、恋人と離れて復活祭もクリスマスも異国の地で過ごす米軍兵士にこれほどの侮辱があるか。

 橋下さんのこの発言があった前日、私は岐阜県の山間の町で「森を活かそう」というシンポジウムを取材していた。その席でパネラーの植物専攻の大学教授がこんなエピソードを語っていた。

 イラク戦争の最中、それこそ銃弾が雨嵐どころか、これ以上ないというような殺戮戦を戦った兵士が身も心もボロボロになって引き揚げてくる。一刻も早く路傍で横になりたい。だが、目を落とすと、そこにスミレに似た薄紫の野辺の花が一輪、二輪咲いている。すると兵士は、最後の最後の力を振り絞るようにして、ヨロヨロと何歩か歩いて花の咲いていない路傍にどっと倒れ込んだ──。

 人間に様々な姿があることは、確かなことだ。性に様々な欲望、欲求があることも紛れもない事実だ。だが、人間の奥底のどこに光を当てるか。人間の深淵の部分のどこに目をむけるか。そのことに、じつは自分の姿、かたち、己自身のヒューマニティーが投影されているのではないか。

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年5月21日掲載)



慰安婦(Wikipedia)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/慰安婦
戦後補償問題(Yahoo!ニュース)
 http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/forced_labor_in_ww2/
橋下徹(@t_ishin) - Twilog
 http://twilog.org/t_ishin/



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