株高、円安もいいけれど29万人救うのが先
— 仮設住宅の入居期限延長 —
小さな記事に心が痛んだ。「仮設住宅入居1年再延長、4年間に」。厚労省は東日本大震災の被災地に立つ仮設住宅の入居期限を昨年に引き続き、1年延長、最長2015年まで居住できることにしたと発表した。みなし仮設と言われる借り上げ住宅を含めて、仮設住宅で暮らす人々は4月2日時点で実に28万9千人に上るという。
災害救助法では2年と規定されている仮設の入居期限を4年にしてくれるというと、役所のありがたいご配慮と見られなくもないが、裏を返せば、東北3県で計画されている2万5千戸の復興住宅のうち3月までに完成したのは1%。たった260戸にすぎない。要するに、当分、仮設にいて下さいね、ということなのだ。
被災地の取材で、ずい分、仮設にお邪魔した。二重扉の外にビニール布を張っても容赦なく吹き込んでくる寒風。夏はプレハブ屋根を焦がすように日が照りつける。それに隣とは合板一枚の壁。プライバシーはあったもんじゃない。
先月、震災2年目の取材で福島を一緒にまわったタクシーの運転手さんが話していた「笑っちゃうけど、悲しくなってくる話」を思い出した。
沿岸部では最も早く市民グラウンドに建てられた仮設。だが早かった分、作りが粗雑だった。夫婦で楽しく侍ジャパンのWBCを観ていると、突然、バーンと画面がNHKの「八重の桜」に変わる。
「お母ちゃん、何するんだ。人が機嫌よく観てるのに」「あれま、あんたも妙なこと言う人だね。私も一緒に観てるのに変えるわけないべさ」。お父さんがぶつぶつ言いながら、リモコンでWBCに戻すと、あら不思議。隣からも大きな音で聞こえていた「八重の桜」は、見事にWBCに変わっていたという。
要するに薄い壁を隔ててリモコンの電波が届いてしまうので、隣がチャンネルを変えるとこっちまで、こっちが変えると向こうまで、画面が変わってしまうのだ。これにはもう一つわけがあって、仮設住宅のテレビ、洗濯機、冷蔵庫などは、海外からの支援金で日本赤十字社が無償で設置してくれた。そのため、ここはシャープ、ここはパナソニックなどと、棟ごとにメーカーは一緒。そのせいでリモコンの電波は、よその家のチャンネルも変えてしまうのだという。
ホント、現地に行ってみないとわからないことは山ほどある。仮設の居住延長は、このあと、もうふた夏もふた冬も、こんな住まいですごせということなのか。株高、円安もいいけれど、まずは29万もの人々をこんな環境から救い出す。それが社会の大事な役割りだと思うのだけどなあ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2013年4月9日掲載)
|