国の巻き添えで地方に批判…矛先違う
— 公務員の駆け込み退職 —
メディアは、批判の矛先を間違えていやしないだろうか。3月の年度末を待たずに、学校の先生方や警察官、地方公務員の駆け込み退職が相次いでいるという。
埼玉県では、公立学校の教員110人が1月中の退職を希望。その中には教頭3人、担任を持っている先生が32人もいた。また、兵庫県警では280人、愛知県警でも140人余りが3月末の定年を待たずに退職して行くという。そんな駆け込み退職は、これらの県以外でも佐賀、徳島などで相次いでいるという。
なぜ、こんな異例の事態になったのか。答えはお金、退職金である。埼玉では、1月中の早期退職と3月の定年退職では、3月の方が平均で140万円少なくなるのだ。2か月、職に止まったばかりに140万円も損するくらいなら早めに退職しようと、続々と早期退職希望者が現れたのだ。
じつは、こうした事態を招いた原因は国にある。財政難にあえぐ国は国家公務員の報酬削減を決め、退職金の一律15%カットを今年1月1日から施行することになった。だが、それだけには止まらない。総務省は「国のお役人がこれだけ減るのだから、地方の公務員も報酬を削減せよ」と自治体に迫り、1月1日には間に合わないけど、一部の府県が2月1日や3月1日をもって削減することにしたのだ。
埼玉のある小学教師の場合、1月末までに退職したら退職金は2720万円だが、3月末まで働くと、150万円減って2570万円しか支給されない。ならば早めに退職しようとなったのだ。こうした事態に、新聞もテレビも厳しい批判を繰り広げている。「子どもたちの卒業式よりお金なのか」「治安を与る警察官が金のために職務を放り出すのか」。
だけど、この批判は的を射ているだろうか。そもそも定年まで目いっぱい働いた人の退職金は150万円も削り、その前に、さっさとやめた人には満額支給する。こんな馬鹿な制度がどこにあるか。
埼玉のある先生は「子どもたちが巣立って行く姿は見たかったけど、結婚が遅かったので、上が大学生、下の子が今年大学受験。やはり150万円は大きい」と言っているという。
次官、審議官クラスになれば、5、6000万円の退職金はザラ。こうした高級官僚には、一線の先生方や警察官にとっての140万、150万円の重みなんてわかるまい。そんな国家公務員の押しつけを、唯々諾々と呑んだ府県の幹部もどうかしている。
私は口が裂けても、この先生方や警察官を悪しざまに言う気はない。
(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2013年1月19
日掲載)
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