橋下さんから世論が離れていく
— 桜宮高校の「生徒募集停止」発言 —
バスケ部員の体罰自殺があった大阪市立桜宮高校体育科の今春の新入生募集が停止されることになった。だが、「悪しき伝統を断ち切るためにはやむを得ない。場合によっては予算執行を停止する」とした橋下大阪市長の発言。これに対して、世論もメディアの論調も相当厳しい。私もその一人だ。
許し難い体罰教師がいた体育科の悪しき伝統を断ち切ることには万人が賛成のはずである。だけど、それがなぜ、新入生の募集停止なのか。いま在校している新年度2、3年生こそ、その悪しき伝統の中にいるのではないか。その生徒たちは、いまのままの体質の中にいなさいということなのか。その生徒たちのためにこそ、教師の指導姿勢、資質を厳しくチェックして、不適格な教師を排除する、それが先決ではないのか。
そうすることによって科の体質が改善されたのであれば、新入生を拒む理由はまったくない。生まれ変った桜宮高体育科でバスケにバレー、陸上競技に野球、思う存分高校生活をおくらせてあげたらいいではないか。
7人のお子さんを持つ橋下さん。「若者が命を絶った現実は何にも増して重い」というのは、まったくの正論だ。だが、正論といえば記憶に新しいことがある。田中真紀子前文科大臣のあの発言である。この10年で100校もの新設が認可され、全国で800校余りに膨れ上がった大学。田中さんは国公立や一部の私大を除いて、大学生の学力はまるっきり信用されなくなっていると問題提起した。そのことはまさしく正論だったし、私もこの発言を支持した。
だけど、それがなぜ、すでに募集要項も発表していた新設4大学の不認可だったのか。大学の学力低下を問題にするのであれば、いま劣悪な環境の大学で学ばされている学生のために、そうした大学に改善を指導し、それがなされないなら、2年後、3年後に募集停止を命じて廃校にもっていくべきだったのではないか。
田中さんは文科大臣という行政の長であったと当時に、一人の政治家でもあった。また橋下さんは首長であると同時に、政党の共同代表という政治家でもある。そんなことはないと信じたいが、自らの政治力を誇示するために教育の現場に介入しているとしたら、公教育は政治によって歪められてしまう。ましてや、「言うことを聞かないなら、金は出さない」というのは、「思い通りにしない者は痛い目に遭う」という悪しき伝統とどこか似ている気さえする。
発信力も行動力もたぐい稀なものを持っている橋下さんから、世論がどんどん離れていくのを見るのは、しのびない。
(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2013年1月22日掲載)
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