総選挙 故三宅さんの思い聞けず寂しい
— 筋通す新聞記者の大先輩 —
いよいよ総選挙。私たちの仕事も向こう1か月は選挙一色に塗りつぶされる。そんなとき、訃報が届いた。三宅久之さん。享年82。テレビ朝日の「ビートたけしのTVタックル」や他局のトーク番組で何度もご一緒させてもらった。毎日と読売、政治部と社会部という違いはあったが、新聞記者の大先輩である。
意見が違うと、あの光り輝く頭から本当に湯気が上がっていると思うくらいの怒りをぶつけてくる。あれは、3年ほど前の「TVタックル」のスタジオだったと思う。沖縄の基地問題か何かで、三宅さんと私の考えが真正面からぶつかった。お互い引っ込む気はない。すると三宅さんが怒鳴った。「だからいまの若い者はダメなんだ!」。
そのとき私、齢64。いくら上下関係の厳しい記者の世界とは言え、「若い者」なんて呼ばれたのは、何十年ぶり。ああ、この人にとって私はいつまでたっても洟垂れ小僧なのか、と思い知った次第。いまとなっては、怒るというより楽しい思い出だ。
筋を通す、物事の本質を見抜く、ブレない。その姿勢が変ることはなかった。忘れられないことがある。私の恩師とも言える黒田清さんが12年前、亡くなったときだ。朝日、毎日をはじめとする全国紙はもちろん、スポーツ紙も記者として一時代を築いた黒田さんの死を写真入りで大きく報じていた。だが、ナベツネこと渡辺恒雄主筆をはじめ、様々、軋轢があって社を出た黒田さんの死に対して読売は申し訳程度に社会面の一段、いわゆるベタ記事扱い。これに三宅さんの怒りが火を噴いた。
ナベツネ氏と三宅さんは同じ政治部出身の旧友。月に一度は酒を酌み交わす仲。だが、それとこれとは訳が違う。黒田さんと一緒にコメンテーターをしていたこともあるテレビ朝日の「やじうまワイド」の番組の中で手をぶるぶると震わせていた。
「これだけの新聞人の死に、読売の記事の扱いは何なんだ。僕はナベちゃんに言うよ。恥ずかしくないのか! 新聞の自殺行為だ」
大先輩の三宅さんに生意気ばかり言ってきた私だが、数年前にご一緒した番組で何かの拍子に「きょうは珍しく大谷くんと意見が一致したよ」と、怒るときとは正反対の子どもっぼい笑顔をぶつけて来られたことが忘れられない。
自らを「正直の上にバカがつく」と言った首相が打って出た解散総選挙。ただただ、バッジ欲しさに、あっちについたり、こっちと離れたり。バカがつくほどまっすぐに筋を通して来られた三宅さんの、この選挙への思いが聞けないのがたまらなく、寂しい。
(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2012年11月20日掲載)
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