人間は「奥深いところで心優しい」はず
— 「かわいい」画像に効果 —
アジアの海の小さな島をめぐって、聞くに耐えない雑言で相手国を罵る国がある。国政に打って出ようかと鼻息の荒い、どこぞの市長はツイッターで子どもじみた大喧嘩をするかと思えば、意見を異にする人は、ことごとくバカ呼ばわり。ニュースのコメンテーターをしていると、こちらの心まで荒んでくるのではないか、と思うことがある。
だからというわけではないが、きょうは、それとは正反対のことを書いてみたい。私事で恐縮だが、私の携帯電話の待ち受け画面は、もちろんわが家の愛犬プルちゃんの愛くるしい顔である。家にいないことの多い日々の生活。夜中、ホテルの部屋で画面を見ながら、水割りを傾ける。しばし至福のときである。
何をのっけからシマラナイ話を、と思われるだろうが、実は先週、読売新聞の夕刊に「『かわいい』に効果」の見出しで楽しい記事が載っていた。広島大学の研究グループが学生に愛らしい子犬や子猫の写真を見せて、たとえば、おもちゃの小さな部品をピンセットでつまみ上げるといった注意力が必要な作業をさせると、正確性が高まったとする結果をアメリカの科学誌で発表したという。
記事には、わが家のプルちゃんにはかないっこないが、大学生に見せた愛くるしいテディベアカットのプードルと子猫の写真が添えられていた。
記事によると、子犬、子猫の写真を見てから作業に入った学生の作業量は、実に44%も増加。成長した犬、猫を見た学生でも12%アップしたものの、子犬、子猫組には及ばなかったという。研究を発表する広島大の準教授は「かわいいという感情は対象を詳しく知ろうという機能があるので、注意力が集中することになる」と分析している。
この記事を受けた翌朝の読売のコラム、「編集手帳」がまたよかった。サラリーマン川柳の入選作、「棒グラフ伸ばしてくれた子の寝顔」を冒頭に紹介。
〈わが子のあどけない寝顔を眺め、あすの仕事に気合いを入れ直した経験は、どこの親御さんもお持ちだろう〉として、話を子犬、子猫に転じる。
<「幼い者を守ってやりたい」気持ちが働き、それが注意力を呼び覚ますのか…。素人考えで感想を述べれば、人はきっと奥深いところで心の優しい生き物なのだろう>と書いていた。
近隣国の指導者に、身近なところの市長に、待ち受け画面を子犬、子猫にしてみたら、なんて余計なお世話を焼く気はさらさらないが、秋の空の下、この人たちも「きっと奥深いところで心の優しい生き物」であることを信じたい。
(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2012年10月2日掲載)
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