許すことのできない裏切り行為
— 校長のいじめ自殺口止め —
自殺した男子高校生(17)の遺族は、息子の死の原因がいじめだとは思っていなかった。同級生が持ってきてくれた手紙は棺に納めるつもりだったが、間に合わなかった。そこで祭壇の亡き息子の遺影に向かって手紙を読んであげていると、そこには「キミはいじめられていた」の文字。震える手で学校に連絡すると、校長は別の生徒からの申告で、すでにいじめのことは知っていた。生徒はイスに死んだ蛾を置かれたり、「菌」と呼ばれたりしていた。
だが校長は、その事実を遺族に知らせる前に何をしたのか。あわてて県教委に連絡。すると県教委の職員は「一刻も早くご遺族に真実を」と助言するどころか、「こういう場合には、不慮の事故として事実を隠す方法もある」と隠蔽を示唆。電話を切った校長は「そうか、その手があったのか」とばかりに、ご遺族に「ここはひとつ、不慮の事故ということにして」……。
兵庫県川西市の県立高校2年男子生徒のいじめ自殺。もし、クラスメートが真実を書いてきてくれた手紙が出棺に間に合って、一緒に火葬されてしまっていたとしたら、校長も担任も、いじめのことは生徒たちに固く口止め。運動会も文化祭も修学旅行も、そして再来年の卒業式も素知らぬ顔でやってのけるつもりだったのだろうか。
こうして原稿を書きながら、ムカッ腹が立つどころではない。吐き気を催す。この事態に兵庫県教育長や知事は何をしているのか。私は橋下さんが大阪府知事時代や市長になってからも、教育委員会や教師についてあれこれを口出しすることについて厳しい批判を繰り返してきた。その思いはいまも変わらない。
7月、このコラムで大津市のいじめ問題にふれ、「先生は掛け値なしに素晴らしい仕事」と書かせてもらった。いま教壇を離れて、教育委員会や行政職にいる先生方で、このままの職場がいいと言われた方に、私はこれまで一人も出会っていない。みなさん、「私たちの仕事は子どもの顔を見ること」とおっしゃる。
<こんなことを言える職業は、そうそうない。すごいな、先生って。うらやましくもある>と書かせてもらった。
大半どころか、ほぼ全員の先生方が、きょうもそんな思いで教壇に立っていると信じている。だからこそ、個人攻撃するわけではないが、この校長と入れ知恵した県教委の職員は許せない。自殺した生徒とご遺族、クラスメート、教師、保護者、みんなを裏切ったのではないか。この人たちには、二度と子どもの顔を見てほしくないと言ったら、言い過ぎだろうか。
(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2012年9月25日掲載)
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