もう社会の仕組みかえるだけでは防げない
— 広島、名古屋で女児連れ去り —
40年以上、事件の取材をしているが、こんなことは初めてである。二学期が始まったばかりの4日夜、広島市で塾帰りの小学6年生の女児(12)が東京の大学2年の男(20)にナイフで脅されて旅行カバンに入れられ、タクシーのトランクに乗せられた。タクシー運転手と通りかかった社会人野球の選手の機転で危ういところを助け出されたが、犯人の大学生は、女児をホテルに連れ込む計画だった。
その前日、3日朝には名古屋で、学校に行こうとしていた小学1年生の女児(7)が同じマンションに住む男(23)の部屋に連れ込まれた。愛知県警は11時間後、居留守を使っている男の部屋に踏み込んで女児を救出したが、部屋で男に殺害された父親の遺体が発見された。女児を監禁しておくのに邪魔になった父親を殺したと自供している。
いずれも女児を性的な対象とした事件で、2008年に起きた秋葉原連続殺人や今年6月の大阪・ミナミの通り魔とは、性質が違う。これらは社会の片隅に追いやられた人間が無差別に襲いかかった事件だが、今度の事件は、犯人は留年中の大学生だったり、大学を中退したばかり。社会から追い出されていたわけではない。これは社会の仕組みを変えることでは解決はつかない。どちらの男も他者とコミュニケーションが取れない。バーチャルな世界の人間と、現実の世界の人間の区別がつかないという共通点がある。
はっきり言って、こうした事件を防ぐのは極めて難しい。アメリカでは、ミッシングチルドレンという言葉が日常語になっている。女児ばかりではなく、男児も全米で年間、数千から数万人、誘拐されている。そのほとんどが性的嗜好の対象で、その手の人物の間で高額でやりとりされていると言われている。子どもがいなくなった親たちは、ステッカーを作ったり、商品のラベルに子どもの写真を貼らせてもらって血まなこで探しているが、見つかることはめったにない。
スーパーの駐車場で日本人駐在員の奥さんが、ほんの数分、子どもを一人にしておいただけで児童虐待として検挙されて、びっくりする背景には、こうした事情があるのだ。大都市では、ハイスクール以前の子どもの通学はスクールバスによるドアツードアが当たり前になっている。とは言え、この日本で、まさか同じマンションの住人が女児を部屋に引きずり込んでいたとなると、頭を抱えてしまう。
ただ、大事なことは、子どもに注意を言って聞かせるだけでなく、親がまず事態を直視することだ。悲しいかな、これが私たちの社会のいまであり、これからなのである。
(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2012年9月11日掲載)
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