もう絶滅させてはならない
— ヤンバルクイナ生息地にオスプレイが飛び回る —
5月新緑のころ、新潟県佐渡で子育て中のトキに、このコラムで「がんばれ!」と書かせてもらった。そのヒナたちも8羽全部が元気に巣立って、いま、せっせと餌取りをするまでになった。だが、そんな楽しい思いもつかの間、環境省はレッドリストを見直し、ニホンカワウソを絶滅危惧種から絶滅種に指定すると発表した。残念でならない。
ニホンカワウソは1979年に高知県須崎市で目撃されて以来30年以上生存が確認されず、環境省は体長1㍍にもなる生物がこれだけの期間、目撃されていないことは絶滅したと見られるとしている。かつては日本中の川に棲息、全国各地にあるカッパ伝説は、両手で餌を食べる人間そっくりのカワウソの愛くるしい姿が、いつしかカッパとして描かれるようになったのではないかといわれている。
こうして昭和の時代まで確かに生きていた哺乳類が絶滅とされたのは、ニホンカワウソが初めてである。もう10年以上前に取材で須崎市を訪ね、夜、宿でこの町の川のどこかで、いまカワウソも眠っているのかと思うとワクワクしてきた覚えがある。あれは夢まぼろしだったのか。
このニホンカワウソ絶滅が伝えられたころ、もう一つ、ニュースが飛び込んできた。森本防衛大臣が沖縄にオスプレイの安全性を説明に行ったその足元で、すでにオスプレイ配備に向けて、ヘリパッドの建設が進められているという。説明に行くずっと前から工事が始まっているとは、どういうことだ。そのことも許しがたいが、このヘリパッドの建設が6か所で進められている沖縄北部の東村・高江区は、レッドリストで絶滅危惧種に指定されているヤンバルクイナの生息地である。付近の森はやんばると呼ばれ、貴重な動植物の宝庫だ。
私もかつて自然林のなかを通す無謀な林道建設の取材で沖縄北部を取材したが、そのとき、偶然1日に2回もヤンバルクイナに出会って、地元の人に運の良さをうらやましがられた経験がある。ほとんど飛べないこの鳥は、半径500メートルほどを移動するだけで生活している。それほど、やんばるの森は餌に恵まれているのだ。だが、その森の上を15メートルの高さで200度以上の排気熱を出すオスプレイが飛び回ったら、森の木もヤンバルクイナもひとたまりもない。
ヤンバルクイナの生息数は、いま約730羽。ニホンカワウソに続いて、また同じ愚を繰り返すのか。ほとんど飛べない鳥の上を、鳥でもできないような飛行をしてみせる奇妙な軍用機が飛び回る。私たちは進行方向を間違えているような気がしてならない。
(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2012年9月4日掲載)
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