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総理官邸 フラッシュアップ


「声なき声」に政治は耳を傾けないのか
— 脱原発20万人デモ 総理が面会 —

 先週の初め、放射能汚染に苦しむ福島を取材してきた。すでに人々が避難している居住制限区域にも取材許可を得て入ってきた。当然、家には誰もいない。目につくのは、巡回するパトカーばかり。田畑には夏草が生い茂っていた。携帯してきた放射能の線量計は見る見る数字を上げ、数十分で区域を出ることにした。
日刊スポーツの実際の記事画像
 そうした区域の人たちが避難している仮設住宅も訪ねたが、私たちの姿を見ると、さっと家に引っ込んでしまう人も多い。付き添ってくれた町役場の職員が「話はしてくれないと思いますよ。みなさん、もう何を言っても無駄という思いが強いんです」と説明してくれる。家の前の長イスに座って、黙って夏空を見上げるおばあさんの深く刻まれた皺だけが心に残った。

 東京に戻った翌日、野田総理が毎週金曜日に原発ゼロを訴えて首相官邸前でデモをしている13団体の代表と初めて面会。代表の中には、「デモでドラムを打ち鳴らすのは、その音に乗せて私たちの声を届けたいからです」と訴える人もいた。だが、野田総理は「原発ゼロに向けては、総合に判断する」と、ありきたりの答えをするだけ。前日まで福島にいた私は、その映像を見ながら、途方もない違和感ばかりを覚えるのだった。

 学生時代、3日とあけずデモに行っていた私はデモという示威行為を否定しない。最高時、20万人を数えたという官邸前のデモにも、猛暑の中、子どもや孫の世代のことを考えて駆けつけた人も多いはずだ。だが、そのことと総理が代表者と面会することは、相いれないものだと思うのだ。

 デモの人数が多く、声の大きいものには総理が会うというなら、デモもなく、声も聞こえて来ないものに対して、国民は、みな賛成とでも言うのか。今度のようなことを続けていては、議院内閣制も、選挙制度に支えられた議会制民主主義も成り立たなくなってしまう。そもそも、住み慣れた家を追われた人々には官邸に出かける余裕はないはずだ。

 平地より5、600メートル高い所に位置する居住制限区域では栗が青いイガをつけ始めていた。だが、町の職員は「果実類は汚染濃度が高いので、採っても食べることはできないのです」という。別の職員は「今年、被災地に来てくれたボランティアは、岩手、宮城の8万人に対して、福島は6000人。放射能のことがあって来にくいということは、頭ではわかっています。でも官邸前に20万人と聞くと、なんだかもやもやしてきてしまうのです」。

 私の中のもやもやが消えないのも、いつまでも続く猛暑のせいだけではないようだ。

(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2012年8月28日掲載)



脱原発系デモ情報拡散 @demo_jhks
 http://demojhks.seesaa.net/
原子力政策の見直し(Yahoo!ニュース)
 http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/review_nuclear_power_policy/
福島県災害ボランティアセンター
 http://www.pref-f-svc.org/



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