日本の若者は確実に育っている
— 仲間と力を合わせて世界と闘う五輪戦士 —
オリンピックの熱が冷めやらない中で、これを書いている。1996年のアトランタ以来15年以上、少しばかり五輪報道にかかわっているが、これほど爽やかな思いを残してくれた五輪はなかったような気がする。柔道女子57キロ級の松本薫選手の金メダルと、アーチェリー女子団体の蟹江美貴選手の銅メダルに番組の中で触らせてもらった。卓球女子団体銀の平野早矢香、福原愛、石川佳純の3選手とはロンドンからの生中継で直接、話をさせてもらった。
金メダルが少なかったの、柔道が不甲斐なかったのと欲は言うまい。私が何より爽やかに感じたのはアーチェリーや卓球の団体をはじめ、フェンシング男子団体の銀、競泳男女400メートルメドレーの銀と銅。さらにはサッカーなでしこの銀や女子バレーボールの銅。みんなの力、チームプレーで素晴らしい成績をあげたことだ。
卓球女子の福原選手は試合後のインタビューの途中で、お姉さん格の平野選手と妹格の石川選手に「本当にありがとうございました」とペコリと頭を下げた。中継の中でそのことを聞くと「団体戦では、いくら自分一人ががんばってもメダルに届かない。あらためてそう思っていたら、急にお礼が言いたくなって」とニコニコしていた。そこには私たちが、かつてワイドショーで度々取り上げた「泣き虫愛ちゃん」ではない、素敵に成長した福原愛さんがいた。
延長戦の最後の2秒を制したフェンシングの太田雄貴選手は「この4人で組めて幸せだった」と仲間を讃えた。競泳400メートルメドレーの競技前、日本の水泳陣男女27人がプールサイドに集まって雄叫びをあげ、個人では惜敗した北島康介選手のために「康介を手ぶらでは帰さない」と誓い合った。
アーチェリーの蟹江選手は、評判通りのゆるキャラ。209対207点でロシアを制しての銅メダル。「自分のプレーで緊張したことはありません。でも、仲間の矢の行方には祈るような気持ちでした」と、おっとりと話してくれた。
こうして、これまで日本が手の届かなかった競技にも若者が力を合わせて躍り出る。あの3・11の震災以来、絆だとか、共助という言葉を口にしながら、時を経たら、ガレキの受け入れをはじめ醜いエゴを剥き出しにした、こうした若者よりはるかに年長の、この国の大人たち。だけど心配することはない。みんなで手を差し延べあって、これほどすごいことを成し遂げてみせる若者たちが私たちの社会に確実に育っている。
真夏の夜の夢ではない。ロンドンから吹いてきた涼やかな風に、いましばらく身を委ねていたい。
(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2012年8月14日掲載)
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