反省したふりは許されない
— 07年闇サイト事件その後 —
テレビのニュース番組のコメントで、悪しざまに人のことを「バカ」などと言うことは許されることではない。だが、そう言うしかなかった。大阪・二色の浜の海水浴場で、大阪府警布施署の警官(27)らが少女を泥酔させ、一人がゴムボートの上で少女を強姦(ごうかん)したとして逮捕された。こんな警官に「バカ」以外にどんな言葉があるのか。
ムカつくほどの極暑の中、ムカっ腹を立てながら、先週末、夕方のニュース番組に出演するため名古屋の東海テレビに行くと、この日、愛知県警が闇サイト殺人事件ですでに無期懲役が確定している堀慶末受刑者(37)ら3人を、14年前の1998年に愛知県碧南市で起きた夫婦殺害事件の犯人として逮捕したというニュースが飛び込んできた。
闇サイト事件は2007年名古屋で、ネットで知り合った3人の男が帰宅途中の磯谷利恵さん(当時31)を襲って惨殺した事件で、3人に極刑を望む利恵さんの母、富美子さんに私は何度もお会いした。極暑の夏も極寒の冬も富美子さんは街頭に立ち、死刑を求める署名は30万を超えた。だが、母の願いは届かず、1人に死刑が言い渡されものの、主犯格の男は自首してきたこと、また堀受刑者は、被害者が1人だったこと、この事件が初犯だったことなどを理由にいずれも無期懲役となった。
ところが堀受刑者は闇サイト事件の9年前、碧南で2人殺害のとんでもない凶悪事件を起こしていたことが明るみに出たのだ。今度ばかりは死刑は免れまい。お母さんの執念が再び、堀受刑者を法廷の場に引きずりだしたという気さえする。
愛知県警は2010年、刑訴法の改正で殺人など凶悪事件の時効が撤廃されたことを受け、昨年4月、未解決事件特命捜査係を刑事21人の陣容で創設。県内32の重要未解決事件の再捜査を行ってきた。碧南の事件では、被害者宅に残されていた湯飲みについた微量の唾液を改めてDNA鑑定。その結果、堀受刑者らのDNAと酷似していることが判明した。
時効撤廃に伴い全国の警察で、いまコールドケース(未解決事件)の再捜査が行われているが、碧南事件の解決はその第1号と言えるのではないか。利恵さんのお母さんの「娘が導いてくれた。反省したふりは許されない」という言葉が胸に突き刺さる。
浜辺で破廉恥なことを仕出かすバカもいれば、汗まみれになりながら、目に見えない証拠品と格闘している捜査員もいる。収まる気配さえない猛暑の中、秋の気配を乗せた一陣の涼風が、肌を吹き抜けて行った気がする。
(日刊スポーツ・西日本エリア版「フラッシュアップ」2012年8月7日掲載)
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