アスリートの熱き思いに感動
― 愛子選手川口選手小平選手が残した言葉 ―
バンクーバーオリンピックは日本時間のきょう、閉会式を迎える。4年に一度の雪と氷の上の感動と涙。いま、しみじみと私の心に残っているのはメダリストの言葉ではなく、なぜかメダル候補と言われながら、メダルに届かなかったアスリートたちの言葉である。
開幕早々に行われた女子モーグル。4位に終わった上村愛子選手は涙で睫毛を濡らしながら「なんでこんな1段、1段なんだろう」。この言葉は大きく報道されたが、上村選手がインタビューの最後に残した言葉はあまり報じられなかった。
試合が終わったとき、競技場には氷雨が降り注いで上村選手の黒いヘルメットは水滴に光り、コメントを聞く記者もずぶ濡れ。そんな記者たちに彼女は「私がメダルを取っていたら、みなさんのご苦労も少しは報われたのに、本当にごめんなさい」。そう言って頭を下げ、静かに競技場を去って行ったのだった。たまたま目にした中日新聞で知ったこんな光景。ほかの新聞、テレビも報じてほしかったな。
フィギュアのペア。ロシア国籍を取得、スミルノフ選手と組んだ川口悠子選手。4位に終わり、この種目で1964年、旧ソ連時代から続いていたロシアの金メダルは12個で途絶えた。観客席には、ロシア国旗に負けず日の丸が揺れた。日本人がロシア国旗が揚がるのを期待し、ロシア人が日本の女性アスリートに熱い声援を送る。そんな観客席の様子に川口選手は「(ロシア国籍となった私に)日本からの応援も感じた。ありがとうございました」。これはオリンピックで初めての光景だったのではないか。
終了後、日本国籍を捨て、ロシア国籍を取得したことに集中する記者の質問に、川口選手は「私の国籍はスケートです」。そして「(氷の上を滑る)スケートに、パスポートはいりません」。
女子スピードスケートの小平奈緒選手は中学2年のとき、大学・高校生に交じって全日本ジュニア・スプリント部門で優勝。だが、その後は、もう一つの夢、教員への道を目指して信州大学へ。勉強との両立で練習不足になったうえ、故障にも泣かされ続けた。中学時代からその才能に注目されながら23歳になってのオリンピック初出場。女子団体追い抜きで銀に輝き、1000メートルに続いて1500メートルでも5位入賞。期待された個人種目ではメダルには届かなかったが、見事な遅咲きの第一歩を踏み出した。
そんな小平選手は、中学生でオリンピックに出場、一躍、注目されながら結果は1000メートルで35位、1500メートルで23位に終わった高木美帆選手(15)をかつての自分とだぶらせながら、「(オリンピックの結果で)スケートを嫌いにならないでほしいな」。
こんな選手たちのひと言、ひと言。私がいつも「子どもたちには何か一つスポーツを」と言い続けている理由もそこにある。きょうはメダルに届かなかった選手たちの言葉も胸に、消え行く聖火を静かに見送りたい。
(日刊スポーツ・大阪エリア版「フラッシュアップ」2010年3月1日掲載)
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