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橋下前市長が言い出した住民投票延期の背景とは
〜 それでもやるなら2つの提案の受け入れを 〜

吉富 有治
大阪

 1月25日の朝日新聞1面に橋下徹前大阪市長のインタビューが載った。橋下さんが政治家になって今年で10年。聞くところでは、朝日新聞では10年の総括記事を載せるつもりだったようである。


 ところが橋下さんは、今年秋にも予定されている、いわゆる大阪都構想の住民投票を「無理してやらない方がいい」と述べたことから、これが波紋を広げた。都構想の言い出しっぺが住民投票の延期を訴えたのだから世間は首を傾げ、大阪維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)は「実施は予定通り」などと露骨に反発した。

 ただ、冷静に状況を分析できる者なら橋下さんに限らず、いま都構想の住民投票をやっても勝てる見込みが低いことはわかるはずだ。

 1月27日に大阪・難波でおこなわれた維新のタウンミーティングを見てもわかる。都構想の説明会のはずなのに、集まった聴衆はわずか。2年前に橋下さんが街宣車の上に乗って説明していたときは熱狂した聴衆で周囲は埋め尽くされていたが、いまは当時の面影もなく寂しい限りである。

 要するに、多くの大阪市民にとって都構想の関心は前回より低くなっているのだ。これは、都構想の対案として出てきた「総合区」も同じで、大阪市が24区の住民を対象にした説明会では、予想の3割しか席は埋まらなかった。都構想や総合区といった都市制度の改革よりも、いまの大阪市民の関心は目の前の生活のほうが大事なのである。

 そこに加えて、維新の勢いが前回の住民投票のときほどでないことも橋下さんにとっては懸念材料なのだろう。昨年の衆院選と堺市長選挙の結果を見ても、明らかに維新がパワーダウンしていることは素人でもわかる。


 このような状況の中で秋に住民投票をやれば、反対多数で否決される可能性が高い。棄権する有権者も多いだろう。もし都構想が否決されたら、「政策の一丁目一番地」が崩れ落ちるのだから、その時点で大阪維新の会は存在意義を失ってしまう。橋下さんの「住民投票延期論」は現状の分析に基づくもので、それは同時にまた、「維新延命策」でもある。

 とは言え、いま現在、都構想の制度設計を担う法定協議会が府と市で開かれている以上、いずれ住民投票が実施する可能性は高い。松井知事も吉村洋文大阪市長も「予定通り」という姿勢を崩していない。府市の両議会でカギを握る公明党の態度もはっきりとしない。

 だが、市民の関心が低いまま住民投票をやってしまうと、20%台、30%台の低投票率で終わることは十分に考えられる。大阪市を廃止するかどうかの重大な決定を低投票率で終わらせてしまうのは、直接民主主義の正統性が揺らぐことにもなりかねない。


 そこで、個人的な提案をしたい。1つは、仮に今年の秋に住民投票をおこなう場合、最低投票率を導入してほしいのだ。最低投票率とは、定められた投票率以下だと、結果が賛成多数、反対多数のいずれであっても無効とするものである。その基準は、せめて過半数はほしい。また、できれば最低投票率に届かなかった時点で住民投票をジ・エンドにするのが望ましい。そうでないと、延々と住民投票が続くからだ。

 最低投票率の導入は府市の両議会で附帯決議を設ければ可能だ。法律や条例と違って、議会の強い意志を示す附帯決議に法的拘束力はないが、行政に対する一定の牽制にはなる。次元は異なるが、憲法改正の国民投票にも同じことが言える。低い投票率のまま憲法を改正されてはたまらない。民主主義の名が泣くというものである。

 もうひとつは投票用紙についてである。前回の投票用紙(写真)を見ると、「大阪市における特別区の設置についての投票」と書かれているが、ここには重大かつ意図的なミスリードがある。「特別区の設置」はいいとして、大阪市の廃止が記されていないのだ。

投票用紙

 そもそも、都構想の根拠法である「大都市地域における特別区の設置に関する法律」(大都市法)の第一条(目的)には、「この法律は、道府県の区域内において関係市町村を廃止し、(後略)」と、明確に政令市を「廃止」することが記されている。にもかかわらず、大阪市民にはその事実を伏せ、あろうことか投票用紙にも「大阪市の廃止」という一文すらない。これは直接民主主義によって重大な決定を下すにしては、有権者に正確な情報を流していない。根拠法を無視した行政の怠慢でもある。

 そこで、もし住民投票をするならば、次回の投票用紙には「大阪市の廃止と特別区の設置についての投票」等と、正確な文言を入れるよう行政当局と府市の両議会は務めてほしいのだ。


 橋下さんは住民投票の延期を言い出したが、実際に延期されるかどうかはわからない。ただ、いずれにしても実施するのは確実だろう。だからこそ、民主的な住民投票にするためにも府市の両議会は2つの提案について真剣に考えてほしいと願うのだ。

(2018年1月31日)


大阪市特別区設置住民投票(wikipedia)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/大阪市特別区設置住民投票
橋下徹の記事一覧(BLOGOS)
  http://blogos.com/blogger/hashimoto_toru/article/
“縮小”する日本において「地方自治」はどうあるべきか? | THE PAGE(ザ・ページ)
  https://thepage.jp/detail/20180131-00000006-wordleaf


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