国会議員の発言から見えてくる知性の劣化と
分断社会の恐ろしさ
吉富 有治
国会の“カミツキガメ”こと、日本維新の会の足立康史衆院議員がまたまた大暴れし、国会の品位を落としている。「またまた」と言うのは、これまでにも足立衆院議員は国会での発言が問題視され、そのたびに党か本人が謝るというパターンを繰り返してきたからだ。その挙句が、今回の結果だった。
あまりにアホらしすぎていちいち批判するのも面倒なのだが、こんな暴言でも放っておいては、いつのまにか既成事実になってしまい、信じてしまう人も出てくるだろう。なので、きちんと批判しておきたい。
足立衆院議員は、11月15日に開かれた加計学園問題の衆院文部科学委員会の質疑で、希望の党の玉木雄一郎代表と立憲民主党の福山哲郎幹事長を名指しで批判。今治市の獣医学部の新設に両議員が反対しているのは獣医師会から献金を受けているためで、「仮に請託を受けて国会質問していれば、あっせん利得罪だ。犯罪者だ」とまで断定した。また、加計学園問題をめぐる報道で朝日新聞を「ねつ造」「死ね」などとツイッターでも書き込んだ。
この質疑について、のちに希望の党に加えて自民党からも「問題発言だ」「懲罰動議だ」とクレームが来たので、足立衆院議員は頭を下げる結末になったが、この人、根っ子の部分ではまったく反省していない。おそらく、また同じ暴言を繰り返して国会の内外を騒がせることだろう。事実、朝日新聞については謝罪せず、これからも批判することを堂々と宣言している。
さて、あっせん利得罪(あっせん利得処罰法」とは、自治体の長や国会議員、地方議員、またはその秘書が、業者から「例の件、お願いしたい」と依頼を受けて、「わかった、手はず通りに裏でこっそりやりましょう」などと請託し、たとえ職務権限のない範囲であっても業者の利益になるよう公務員に何らかの働きかけをおこない、その見返りに金品を受け取ることをいう。違反すれば3年以下の懲役だから罪としては重い。
玉木代表らが獣医師会から献金を受けたのは事実でも、国会で加計学園問題ついて質問をおこなったことがあっせん利得処罰法に当たるという主張については、かなり無理がある。いや、強引だろう。
と言うのは、まず、あっせん利得処罰法でいう「あっせん」の内容とは、国や地方の公共工事などの「契約」か、公務員の採用を依頼したり、あるいは自動車免許の取り消し処分のもみ消しを求める「行政庁の処分」に限られているからだ。国会で質疑することは「契約」ではないし、「行政庁の処分」とも違う。国会は予算や法律を審議し、政府の方針をチェックする場だからだ。行政庁の処分は、個々の役所がおこなうものである。
それよりも、玉木代表らが獣医師会から「請託」を受けたのかどうか、ここがポイントだろう。この点を立証せずに「あっせん利得罪だ」と断ずるのは、果たしてどうなのか。足立議員は一応、「仮に請託を受けて国会質問していれば」と仮定の話をしていたが、主張の全体を眺めれば玉木代表らを犯罪者扱いし、なおかつそのようなイメージを国民に振りまいていた。
足立衆院議員は元経産官僚。当然、法律は知っているはずで、自身の主張の不備もわかっているはず。一方、国会議員は、国会での演説や討論などについて院外で責任を問われないという憲法上の免責特権があり、なので足立衆院議員は名誉毀損にも問われない。せいぜい、院内での懲罰動議くらいでお茶を濁すのが関の山である。そこを百も承知で無理スジな主張を繰り返し、法律を知らない国民や一部支持者らへのウケを狙ったのだとすれば、私たち国民もなめられたものである。
ただ、それより問題なのは、足立衆院議員の発言を「その通りだ」と手放しで喜ぶ人たちがいることだ。野党をこき下ろし、朝日新聞を「ねつ造」「死ね」など批判すれば、両手を上げて賛成する人たちが増えている日本の現状こそが恐ろしいのではないのか。
朝日新聞を含め、ときにメディアは読者の批判にさらされて当然だろうと思う。批判されないと独善に陥り、権力をチェックするというジャーナリズムの役割を忘れてしまうからだ。だが、論証と検証を重ねないままイメージだけで「ねつ造」「死ね」と言うのは批判になっていない。単なる"あおり行為"に過ぎず、これがクルマの場合、もし事故を起こすと道交法違反か危険運転致死傷罪に問われてしまう行為だろう。
足立衆院議員の発言が問題なのは、その不正確な内容もそうだが、モノゴトを「善と悪」「正義と不正義」などと単純に二分化し、巧みなイメージ操作によって社会が分断される危険性が潜んでいることだ。
カミツキガメはどうでもいい。せめて私たちは何が真実か、何が本質かを見極める冷静さと賢明さは持ちたいものである。
(2017年11月24日)
足立康史(wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/足立康史
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