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ドイツ・ボンで「グローバル・メディア・フォーラム」に参加
報道が不自由な国々の記者たちに学んだ日本の“報道の自由”

吉富 有治


国際公共放送ドイチェ・ベレと吉富
国際公共放送ドイチェ・ベレと吉富


 6月17日から22日までの6日間、旧西ドイツの首都ボンを訪問した。ドイツ総領事館のお誘いを受け、国際公共放送ドイチェ・ベレが主催する「グローバル・メディア・フォーラム」(ドイツ外務省後援)に参加するためだ。


 今年で10回目となるグローバル・メディア・フォーラムは、世界各国から記者やメディア研究者ら約400人が参加し、最新の政治や経済動向、また報道の自由などについて意見交換がおこなわれる。今年のメインテーマは「独自性と多様性(Identity and Diversity)」。個別のテーマに沿った分科会ではヘイト問題やネットジャーナリズム、右傾化など様々なテーマで討議が繰り広げられた。

 フォーラムはボンの中心街から南へ約3km、ライン川沿いにある「ワールド・コンファレンス・センター」で開かれた。すぐ近くにはドイチェ・ベレ、そして国連ビルがある。

 メイン会場でボン市長、ドイツ政府の経済・エネルギー担当相らの挨拶のあと、分科会が広い会場内のブースで開かれていた。私もいくつか参加したが、特に興味深かったのが「シリアにおける市民ジャーナリズム」をテーマに掲げた分科会だった。

シリアにおける市民ジャーナリズムの分科会でシリアにおける
市民ジャーナリズムの分科会で

 シリアは現在、政府軍と反政府軍による内戦が激しく、そこに加えてIS(イスラム国)が加わって内戦をさらに激化させ難民も続出している。このような混沌とした国家にあって、ジャーナリズムはどうなっているのかが分科会のメインテーマだった。参加したのは司会のほか、国際的なNPO組織のメンバーや国境なき記者団のジャーナリストら。そしてネット中継で参加したのが、隣国で市民ジャーナリズム活動に励む匿名のシリア人である。

 まず、国境なき記者団に所属するジャーナリストが言う。もともとシリアでは報道の自由は限られていたが、内戦で国内が混乱してからはさらに統制が厳しくなり、外国人ジャーナリストたちは追放され、多くのメディアが廃業させられた。2013年に入ってからはISが台頭し、ジャーナリストが殺される事件も相次いだという。いま残っているジャーナリストは政府側につくか、反政府かのいずれか。ただし、反政府系のジャーナリストはヨルダンなど国外で活動している。

 シリアではプロの記者も減ったが、だからといってニュースを知りたい人たちまで減るわけではない。そのため必然的に一般市民の間からジャーナリズムの関心が芽生えてきた。スマホで映像を取り、YouTubeにアップロードして世界に配信する行為が相次いだ。そのピークは2012年から2013年の前半にかけてだという。

 ところが、市民ジャーナリストの多くは反政府的な活動家が多く、情報には一定のバイアスがかかり、信頼性にも欠けていた。もっとも、身内を殺されたことで政府憎し、IS憎しの感情がむき出しになっているから、怒りに任せた報道になるのは理解できなくもない。このような市民ジャーナリズムの次に生まれたのが、「ジャーナリスト教育」だという。分科会に参加したNPOのメンバーが、彼ら市民ジャーナリストを教育した。

 なぜ訓練が必要なのか。理由は、これまでの市民ジャーナリズムの報道は、「誰々が言っている」「こんな話がある」といった又聞きのような情報源が不確かなものが多いからだ。そこで、正しい情報を伝える方法として、正確なニュースに欠かせない5W1Hや、ニュースソースから取ってきた情報の裏取りといった取材のイロハを教えたという。これまでシリアで、70人から80人は訓練したとNPOのメンバーは語っていた。

 また、スカイプで参加した匿名のシリア人は、かつて政府軍に従軍した兵士で、現在は国外から情報を発しているという。

 その匿名シリア人記者が言うには、かつてシリアには100以上の新聞があったが、いまは2、3にまで減り、記事を書いても政府を絶賛することだけに限られているという。現在でもシリアでの報道は、スポンサーや政府が欲するものしか書けない。この記者のおもな情報源はシリア国内にいる協力者だが、配信先の外国メディアの編集者は「情報が偏っているのではないか」と疑い、なかなか記事にならないのが悩みのタネだと語っていた。


オープニングでドイツ政府の経済・エネルギー相の挨拶
オープニングでドイツ政府の経済・エネルギー相の挨拶


 さて、このグローバル・メディア・フォーラム、会場を見回した印象では日本人や中国、韓国などアジアの記者は少なかった。日本人は私を含め2、3人だったかもしれない。むしろ目立ったのはアフリカ諸国の記者たちだった。中でもケニア、ナミビア、ルワンダの記者との交流では示唆に富む話も多かった。

 ルワンダの記者は、「私たちの国ではかつて大虐殺が起こり、いまでも報道の自由はなく政府も批判できない。だが、批判できるように努力している最中だ」と語り、ケニアの記者に「日本は先進国だが必ずしも報道の自由があるとは言えない」と半ばジョークを飛ばすと、「それはシンゾー・アベがいるためか?」と逆に質問された。彼らは報道の自由の大切さも日本のこともよく理解していたようだ。


 一応、日本には報道の自由がある。だが、森友学園問題や加計学園問題で安倍晋三政権に忖度(そんたく)する多くのマスコミを見ればみるほど、記者として訓練が必要なのはシリアよりも日本の記者ではないかと考えさせられた、今回のドイツ訪問だった。

(2017年6月29日)



Global Media Forum | DW
 http://www.dw.com/en/global-media-forum/global-media-forum/s-101219
国境なき記者団「報道の自由度ランキング」2017発表(Togetterまとめ)
 https://togetter.com/li/1104603
アレッポの少女バナ・アラベドさんは、各国のトップに手紙を書き続ける
「プーチン大統領、刑務所に入って」(HuffPost)

 http://www.huffingtonpost.jp/2017/03/08/bana-alabed_n_15254676.html

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