JavaScriptが使えません。 BACK(戻る)ボタンが使えない以外は特に支障ありません。 他のボタンやブラウザの「戻る」機能をお使い下さい。
本文へジャンプ サイトマップ 検索 ホームへ移動
ホーム 更新情報 フラッシュアップ スクラップブック 黒田清JCJ新人賞 活動 事務所

Webコラムのコーナートップへ
米国の光と闇
トランプ大統領の就任式を取材(下)

吉富 有治


トランプ反対派のデモ行進
トランプ反対派のデモ行進

 ドナルド・トランプ大統領の登場は米国だけではなく、日本を含めて世界が激震に見舞われている。TPPからの永久離脱やメキシコ国境での壁の建設、さらにはイラクやイラン、シリア、スーダンなど中東・アフリカ7か国からの入国禁止の大統領令は米国や世界に大きな波紋を広げることになった。


 ところが、この大統領の方針に身内が真っ向から歯向かうのも米国らしい。まず、入国禁止の大統領令を真っ先に批判して反旗を翻したのがサリー・イェイツ司法長官代理だった。イェイツ司法長官代理は「大統領令が合法だと『確信』できない」と述べ、大統領令の合法性や政策としての有効性に疑問があると訴えた。怒ったトランプ大統領は司法長官代理を更迭したが、今度はワシントン州政府やミネソタ州政府などが「信仰を事由に差別する命令で違法で違憲だ」と連邦地裁に提訴。ニューヨーク州やワシントン州など複数の連邦地裁がこれらの言い分を認め、入国禁止の大統領令を一時停止させた。なお、日本時間の2月10にはカリフォルニア州サンフランシスコの連邦控訴裁判所が地裁の決定を支持、そのためこの大統領令はしばらくの間、停止されることになった。

 おまけに、国務省の職員900人が大統領令に反対する署名にサインし、国連事務総長や欧州各国の首脳もトランプ大統領の政策を非難、黙っているのは日本政府だけという状況である。ちなみに私の友人の国務省職員によると、今回の署名制度はニクソン政権時代に生まれたもので、法律に反することに関しては、公務員でも大統領に対して反対の声を上げることが可能で、そのために更迭され処分を受けることはないのだという。

 このようにトランプ大統領の就任から1か月も経っていないというのに、米国内の混乱はますます広がっている。ただその一方で、いま米国で起きている混乱は、正しく混乱しているように感じて仕方がない。

 「正しく混乱」というのも奇妙な表現だが、言葉を変えれば、波に揺られて船が右に傾けば左へ戻ろうとする力が働いているようなものかもしれない。いくらトランプ大統領が極端な政策に突き進んでも、それを押しとどめてバランスを取ろうとする社会システムが機能しているのだ。


 私もワシントンで見てきたが、大統領就任式のパレードでトランプ反対派が法の範囲内においてデモ行進したり、シュプレヒコールを上げることを警察官や支持者らが止めることは絶対になかった。これは米憲法修正第一条の信教、言論、集会の自由が広く国民に尊重されているからだろう。また、中東・アフリカの一部の国々からの入国を禁止した大統領令にニューヨーク州など各地の連邦裁判所が「待った」をかけたのは民主主義の基本である三権分立が守られているからだろうし、大統領の側近である司法長官代理や国務省の職員が大統領令に従わなかったのは、公務員として違憲命令には従えない職務への誇りと良心があったからではないのか。CNNやニューヨーク・タイムズなど全米のマスコミがトランプ大統領を批判しているのは権力を監視する第四権力の機能が働いているからだろう。

 翻ってわが日本はどうなのか。安全保障や治安問題など安倍晋三首相の政策に違憲性があった場合、体を張って阻止する閣僚や官僚は何人いるのだろうか。最高裁をはじめ高裁、地裁で三権分立の基本原理は働いているのか。市民が安倍政権の批判や原発反対を叫んでも、機動隊や警察官がすっ飛んで来て排除することはないのか。報道機関はジャーナリズムの立場から安倍政権と厳しく向き合っているのか、あるいは、政府は憲法で保障された報道や言論の自由を守っているのだろうか。

 日本の政治は議会で圧倒的多数を占める自公政権によって、政治的な混乱は少なく社会の秩序も一応は守られているように見える。しかし、そこに秩序はあっても、果たして健全な秩序と言えるかは疑問だろう。米国の混乱が「正しい混乱」なら、日本は「歪んだ秩序」ではないかという気がしてならず、私にはむしろ米国のほうが羨ましいくらいである。


 米国で起こっている様々な混乱を同じ民主主義国家を標榜するいまの日本と照らし合わせてみればいい。おそらくそこには米国の闇と光とともに、日本の深刻な闇も見えてくるはずなのだ。
(2017年2月10日)



トランプ大統領|NHK NEWS WEB
 http://www3.nhk.or.jp/news/special/45th_president/
トランプ新政権ニュース|ワールドニュース |ロイター
 http://jp.reuters.com/news/world/uselection/
トランプ大統領誕生の衝撃 | 東洋経済オンライン
 http://toyokeizai.net/category/trump-impact/

戻る このページのトップへ