茶番の歴史が繰り返される大阪の不幸
2度目の住民投票がほぼ確実に
吉富 有治
歴史は繰り返すと言うが、それにしても早い。大阪市で2015年5月17日、いわゆる大阪都構想の是非を問う住民投票がおこなわれ、僅差ながら反対が賛成を上回ったことで都構想は否決された。だが、ここに来て、否決されたはずの住民投票が再びおこなわれることが、ほぼ確実になったようだ。
前回の住民投票をめぐっては賛成派と反対派、無関心派の3つに有権者が分かれ、特に都構想に賛成、反対の市民との間で感情的な対立が生じた。ちょうど米国でも民主党のヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏が昨年の大統領選で火花をちらし、米国を二分するほどの対立が起きた。規模は小さいが大阪でもまったく同じ構造の現象があちこちで見られ、中にはその対立が家庭内にまで持ち込まれて家族が不仲になる事例まであったほどである。また住民投票後も大阪府の松井一郎知事は、都構想に反対する大阪の自民党府議団、市議団を名指しで批判するものだから、調子に乗って尻馬に乗る市民まで出る始末。残念ながら大阪市民に生じた感情のしこりは、いまだに続いている。
その松井知事と大阪市の吉村洋文市長は、今年2月中旬からスタートする2月議会で法定協議会の設置条例案を提案する予定である。法定協議会とは都構想の制度設計をおこなう機関で、ここで策定された「特別区設置協定書」が住民投票に付されて有権者の判断を仰ぐことになる。ただし、この条例案を可決するには大阪府議会、大阪市議会で過半数の賛成を必要とするが、都構想推進派の大阪維新の会は府議会、市議会とも単独過半数には届いていない。そこでカギを握るのが公明党。法定協議会のゆくえは同党の出方次第であり、そのため松井知事と吉村市長は過日、府市の公明党幹部を料亭に招き、「住民投票をもう一度やらせてほしい」と頭を下げていたことが既に一部の新聞報道で明らかになっている。
さて、当初は「住民投票で決着はついた」と首を縦に振らなかった公明党も、どうやら法定協議会の設置条例案には賛成するようだ。私の取材に対して複数の同党の関係者が認めている。維新と公明党との間でどんな取り引きがあったかは不明だが、おそらく次の衆院選で公明党の候補者がいる選挙区に維新は対立候補を立てないという密約ができたのだろう。ただ、それだけではあまりに露骨すぎるので、公明党大阪市議団が掲げている「総合区」をいったん議会で可決させ、同党のメンツも守るという取り決めもあったようである。
その後のプロセスは2年前と同じだ。1年以内に法定協議会を立ち上げて協定書を作り、これを維新と公明が賛成する。その後に住民投票を実施し、賛成多数なら都構想へ、反対なら総合区を導入することになりそうだ。
それにしても公明党の態度は意味不明である。同党が「総合区」を目指すのは、都構想に代わるベターな案だと思うからだろうし、総合区の設計図だけで満足ということはないはず。もし住民投票がおこなわれると、総合区は設計図のままで、それこそ絵に描いた餅。このような維新提案のプロセスを同党が納得するなら、公明党は自分たちが作った案に自信がないということになる。
つけ加えるなら、都構想の根拠法である大都市法が規定する住民投票とは、「大阪市を廃止して代わりに特別区を設置することに賛成か反対か」というものであり、特別区と総合区のどちらを選ぶかと言ったものではない。2度目の住民投票が実施されると、実質的に特別区と総合区の選択になり、そこに「現状の大阪市のまま」という考え方はなくなる。
地方議会は二元代表制であり、首長と同様、議会も有権者の代表なのだ。その代表が仮に総合区を選択したのなら、それは民意の現れだろう。この場合は総合区を実現するのが筋である。なのに議会で総合区を可決させて住民投票をおこなうのは屋上屋を架す愚でしかない。それでも住民投票をおこなうつもりなら、大阪市議会で総合区導入の決議の際、「住民投票の結果を待って導入する」といった付帯決議を付け加えるしかないだろう。
歴史は繰り返す。最初は悲劇として、二番目は茶番として―。まさに、この格言どおりのことが今年の大阪で繰り広げられようとしている。
(2017年1月12日)
大阪市特別区設置住民投票(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/大阪市特別区設置住民投票
大阪ダブル選挙前に10分で復習したい『大阪都構想』 賛成派と反対派の理由 - NAVER まとめ
https://matome.naver.jp/odai/2142892293318388201
マルクス『歴史は繰り返す。最初は悲劇だが、二番目は茶番だ。』|インクワイアリー
http://www.a-inquiry.com/ijin/116.html