地方がカジノ誘致合戦へ
ならば、その是非を問う住民投票の実施を!
吉富 有治
日本もいよいよカジノが実現することになった。IR(統合型リゾート)を含む、いわゆるカジノ解禁法が12月15日未明、今国会で可決、成立した。早ければ、2020年の東京五輪に合わせて日本版カジノがオープンする。
カジノの旗振り役は超党派の国際観光産業振興議員連盟、通称「カジノ議連」の国会議員たちだ。カジノ議連は2010年4月から活動を開始し、カジノの合法化を目指してきた。彼らにしてみれば、ようやくカジノ法案が成立したことで夢が叶ったと手放しで喜んでいることだろう。
浮かれているのは推進派の国会議員だけではない。自治体も同じだ。何せ、IRはホテルやテーマパークなどの商業スペースが大部分を占めるため、雇用や消費の増加など地元経済の起爆剤になると期待する自治体は少なくない。目下、「1号店」のオープンを目指すのは、北海道苫小牧市や釧路市、神奈川県横浜市や長崎県佐世保市、そして大阪府大阪市などで、合わせて約20もの自治体がカジノ誘致に積極的だ。そのため各府県、各市とも国会議員への陳情合戦にしのぎを削っているという。
その一方、喜ぶどころか複雑な気持ちなのが国民である。それは、はっきりと数字にも現れている。
毎日新聞、共同通信などがカジノ解禁法が成立した直後におこなった世論調査によると、共同はカジノの賛成が24.6%、反対は69.6%、毎日は賛成29%、反対59%と、いずれも反対が賛成を大きく上回っている。カジノ議連の国会議員と違って国民の大半はカジノを批判的に眺めているようだ。
国民がカジノに慎重な理由は様々だが、最大の理由はギャンブル依存症だろう。いまの日本はパチンコや競輪、競馬などでギャンブル依存症の疑いがある"患者"が増えているのに、これ以上増やしてどうするのかという不安がある。そこに加えて、一攫千金を狙おうとカジノで借金を重ねる多重債務者や、反社会的勢力が裏で暗躍する心配も消えない。
もっとも、私に言わせれば、「IR、カジノを経済の起爆剤に」という発想こそがギャンブル的である。そもそもカジノやIRは、もはや世界的に斜陽産業になりつつある。ラスベガスやマカオでは倒産する運営会社やホテルまであるくらいだ。これは他国でも同じで、客の奪い合いになっている。だから米国やマカオのカジノ運営会社は新たなマーケットとして日本をターゲットにしたわけである。最初こそ海外などから客が押し寄せるかもしれないが、所せんは斜陽産業、そのうち日本版カジノの運命もラスベガスやマカオと同じになるだろう。
カジノ解禁法が成立したので、いずれ日本のどこかでカジノが開かれる。ただし、誘致に熱心な自治体にもハードルがある。カジノ解禁法にくっついてきた15項目の付帯決議があるからだ。
その5番目には「地方公共団体が特定複合観光施設区域の認定申請を行うにあたっては、公営競技の法制にならい、地方議会の同意を要件とすること。」とある。つまり、いくら自治体トップや地元財界がカジノ誘致を目指しても地元議会が同意しなければカジノ解禁は難しい。付帯決議なので必ずしも法的拘束力はないが、さすがに自治体も世論を気にして尊重はするだろう。
そこで提案だが、カジノ誘致を目指す自治体は議会の同意だけではなく、同時に住民投票も実施してはどうか。各紙の世論調査で6割以上がカジノに反対しているのだ。いくら法律や付帯決議があるからといって行政と議会だけで決めるのではなく、地元の人たちの意見も最大限に汲んでほしいと思うのだ。
そもそも自治体はカジノ誘致に成功すれば地元経済の復興や役所の財政も潤うと算盤を弾くが、もし失敗すれば莫大な借金を抱えることにもなる。ホテルなどの施設は民間投資だとしても、会場開発や交通機関などのインフラ整備は自治体の負担だからだ。その結果、不利益を被るのはその自治体の全住民ということになってしまう。地元が無関心だと、カジノに失敗しても行政や議会は知らん顔でやり過ごすだろう。
このように、カジノ誘致の是非を議会の同意だけでなく住民投票で決めるのは、これが私たちの住む社会に影響を与え、回りまわって住民の生活にも直結するからである。大阪都構想の是非を問う昨年5月の住民投票は本来、有権者にも地方財政や都市制度の基礎知識が求められるものだった。だが、カジノは違う。こちらはギャンブル依存症や多重債務者の増加、さらには自治体の未来といった地元住民だけでなく国民にとっても身近で切実な問題であり、だからこそ住民投票にふさわしいのだ。
カジノ誘致の是非を問う住民投票に法改正は必要ない。条例を制定するだけで可能だ。議会さえその気になればすぐにでもできる。カジノに賛成、反対を問わず、ここはひとつ自治体も地方議員も世論の意向も考慮して住民投票を前向きに考えてもらいたい。
(2016年12月26日)
カジノ合法化を理解するのに役立つ記事まとめ(カジノル)
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ハイテク化が進むラスベガスのカジノから〜空間と体験〜(Neoma Design Co., Ltd.)
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カジノとの共存!?大阪万博の誘致先に「夢洲」(BLOGOS)
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