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総合区と都構想を比べる愚
2度目の住民投票は“究極の後出しジャンケン”だと思うべし

吉富 有治
大阪

 大阪市の橋下徹前市長が退任し、新たに同じ大阪維新の会の吉村洋文市長が就任してから今年12月で1年になる。その吉村市長は、他会派との対話を進めることで数々の成果を上げている。


 最大の懸案だった市営地下鉄の民営化もわずかだが一歩進んだ。完全民営化とまではいかないが、自民党市議団が申し入れた条件を受け入れることで“半民営化”の目処まではついた。関西財界との関係も良好で、市長は海外の要人や各国総領事館の外交官らとも積極的に面談している。

一方、橋下前市長の時代は市議会や財界、おまけに米国との関係までこじれさせ八方塞がりになった。周囲は敵ばかりと考える対立一辺倒の前市長に比べ、成果の面から見れば吉村市長は優秀だといえるだろう。だが、いわゆる都構想に関しては往生際が悪い。昨年5月17日の住民投票で僅差ながら反対が賛成を上回ったというのに、ここに来て再び都構想を実現しようと躍起になっている。

 大阪維新の会は昨年11月の大阪府知事選、大阪市長選のいわゆるダブル選挙で勝ったことを根拠に都構想の再チャレンジを掲げている。だが、政策を選ぶ住民投票と政治家を選ぶ首長選挙は本来、異質なものだ。それをあたかも同次元のものだと主張するのはまやかしであり、住民投票で反対票を投じた約70万人の大阪市民をバカにした行為だろう。維新の会や橋下前市長は昨年5月の住民投票を「究極の民主主義」と呼んでいた。もし2度目があれば、それは「究極の後出しジャンケン」でしかない。


 その吉村市長は、公明党が提案している「総合区」を踏み台にして、任期中に再度の住民投票を実現しようと躍起になっている。総合区とは、大阪市を残したまま現行の24行政区が持つ予算、執行などの権限を拡大するものだ。場合によっては区の再編もある。総合区の実現にはまず市長が提案し、その後、市議会で可決すれば実現する。住民投票は必要ない。

 吉村市長は総合区を受け入れる代わりに、来年2月の市議会で提案予定の法定協議会(法定協)設置条例案に賛成してもらおうと公明党に働きかけている。ちなみに法定協とは都構想の設計図を作るために必要な機関で、この法定協ができればあとは住民投票へまっしぐらだ。

 もっとも、総合区を導入したあとに都構想の住民投票をおこなうというのも奇妙な話だろう。都構想は大阪市を廃止し、代わりに基礎自治体もどきの特別区を設置する。こちらの導入には住民投票が必要である。つまり総合区は大阪市の存続、都構想は廃止。まるで正反対の政策なのだ。大阪市の存続を市議会で決議した上で、しばらくしてから住民投票によって大阪市の廃止を問うというのは、最高裁で無罪判決が確定したあと、再審請求もないのに「やっぱり死刑にしよう」と確定判決をちゃぶ台返しするのと変わらない。

 そもそも公明党は「都構想は住民投票で決着済み」という態度を崩していない。だったら吉村市長から「おたくの総合区案を呑むから住民投票に賛成してほしい」と言われたら、公明党は蹴り飛ばさないといけない。加えて言えば、公明党が総合区にこだわるのはそれを実現させたいからではないのか。プランだけ作って満足ということはないはずだ。


 吉村市長は就任1年目の各紙インタビューで「住民投票で総合区と都構想、どちらがベストかを市民に選んでもらう」などと語っているが、そもそも都構想の根拠法である大都市法が規定する住民投票とは「特別区を設置することに賛成か反対か」というものであり、特別区と総合区のどちらを選ぶものではない。大都市法の趣旨にも反し、これでは現状の大阪市を存続するという選択肢はなくなってしまう。

 仮に市議会が総合区を選択したのなら、その議決は民意の現れとして重んじなければならない。この場合、総合区を実現する以外にないのだ。「議会で総合区を決めたあとに再度の住民投票を」などという考えは二元代表制の否定と議会の軽視でしかない。

 聡明な吉村市長ならこれくらいの理屈はわかるはず。意固地になって前市長のように八方塞がりに陥る愚だけは避けてほしいものだ。
(2016年12月8日)



総合区(Wikipedia)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/総合区
大阪都構想の関連ニュース一覧(Yahoo!ニュース)
 http://news.yahoo.co.jp/theme/0ca61f040827b7eb6810/
大阪都構想はなぜ否決されたのか?をデータジャーナリズムする(マーケティングメトリックス研究所)
 http://www.mm-lab.jp/statistical/why_it_was_rejected_in_osaka_metropolis_plan/

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