JavaScriptが使えません。 BACK(戻る)ボタンが使えない以外は特に支障ありません。 他のボタンやブラウザの「戻る」機能をお使い下さい。
本文へジャンプ サイトマップ 検索 ホームへ移動
ホーム 更新情報 フラッシュアップ スクラップブック 黒田清JCJ新人賞 活動 事務所

Webコラムのコーナートップへ
危険な「土人」発言の擁護論
通用しない警察官の“売り言葉に買い言葉”

吉富 有治
沖縄

 「なんだ、また大阪か」という声が聞こえてきそうな嫌な出来事だった。沖縄県東村高江で10月18日、米軍ヘリポート建設現場の警備にあたる大阪府警の若い警察官が、反対派の住民や活動家らに対して「土人」「シナ人」などと言い放った。これを地元紙である琉球新報や沖縄タイムスが報じ、また全国紙も大々的に取り上げたことでこの問題はいまも大きな波紋を広げている。


 この「土人」発言をめぐっては保守系のメディアや一部政治家などが、「現場で警察官を挑発し、過激な行動を繰り返す活動家がいるからこのような問題が起こったのだ」などという理屈によって問題を起こした警察官を擁護している。また、ネットでもこれらの意見に共感する人たちは少なくない。要は「売り言葉に買い言葉」だから、どっちもどっちだろうというのである。だが、チンピラ同士のケンカならいざしらず、当事者のひとりが警察官ならこの理屈は通用しない。

 そもそも「売り言葉に買い言葉」が“成立”するのは立場が対等な場合に限られる。ただし、ここでいう「立場」とは職業や役職といった身分的なものではなく、プライドや自信といった、いわば心の余裕に基づくものだ。たとえば、小学校の教師が生徒から面と向かって暴言を吐かれても、普通なら諭すことはあっても言い返しはしない。教師と小学生とでは立場も心の余裕もまったく違うからである。それでも言い返す教師がいるとすれば、その人の頭の中身は小学生並みということだろう。

 騒ぎになっている現場周辺に過激な反対派がいたとしても、人を物理的に拘束できる国家権力を持つ警察官とがそもそも対等なわけがない。また、現場の警察官はそのような強大な公権力を持ち、治安を守るプライドがあるからこそ、いき過ぎた言動が起こらないよう普段から自律心と自制心という高い精神性も求められているのだ。

 公権力を行使できる立場にいる警察官の行動は法律に従う必要がある。一方、「土人」「シナ人」は差別語でありヘイトスピーチである。当然、これは法に則ったものではない。したがって、「土人」と言い放った警察官は法を破ったにも等しく、法を守る警察官の行動として不適切である。さらには、反対派の行動が過激で無法なものだとして、だから「売り言葉に買い言葉」で「土人」という言葉を投げつけたのだとしたら、この警察官の頭の中身は相手と同レベルである。

 また、もし警察官に売り言葉に買い言葉を許してしまえば、「なんだ、あいつの暴言と態度は。気に食わないから罪をでっち上げて逮捕してしまえ」といった国家権力の乱用を許してしまうことにもなる。だからこそ、国民から不安と不信感を持たれないよう警察庁長官が真っ先に頭を下げことを理解しなくてはならない。


 それにしても、「土人」などという言葉を耳にするのは久しぶりだ。「土人」の本来の語源は、先住民や土着の民(たみ)という意味で、ひとつの土地に古くから住む人たちのことを指す言葉である。その意味では、私も大阪府警の若い警察官も、そしてすべての日本人が日本というひとつの国家に定着する「土人」だろう。

 ところが、この言葉は歴史的な流れの中で身分の高いものが低い者を、また先進国が後進国の国民を蔑む、いわば上から目線の侮辱的なスタンスを持つようになった。「文明から外れた人たち」「原始的な生活を営む者」、さらには「凶暴、野蛮な人」などといった意味を含むようになったのだ。そのため今日では、「土人」は差別用語として扱われている。

 だが、現代の世界において「文明から外れた人たち」「原始的な生活を営む者」がいるのかというと、実はそう多くはない。たとえばアフリカのマサイ族の人たちは観光客向けに民族衣装を来て戦いの踊りを披露してくれても、実生活では携帯電話やインターネットを使いこなしている。各国の"未開"の部族でも真の生活は似たようなものだ。

 ただ、世界には少数ながら現代の科学技術や欧米文化に同化しようとしない人たちがいるのも事実。だとしてもそれは、マネーゲームや物欲から離れ、むしろ自分たちの歴史や伝統、ライフスタイルを大事にしようとする誇り高き精神に由来している場合が大半である。

 一方、残念ながら「凶暴な人」や「野蛮人」は存在する。たとえば、どん底にあえぐ国民の辛苦も顧みず、核開発に血眼になる某国の指導者や、“世界の警察官”と胸を張りながら、かたや「大量破壊兵器が存在する」と難くせをつけ、常にどこかに戦争を仕掛けている某大国である。あるいは沖縄の歴史も知らず、日米安保の名のもとに一方的にしわ寄せを押しつける側の人たち。沖縄県民が普天間基地の辺野古移設反対の民意を示したにもかかわらず、国家権力を使って強引にモノゴトを進めようとする立場の方々などなどである。彼らの地位や身なりは立派でも、その精神の貧困性は野蛮、凶暴といっても言い過ぎではないだろう。


 ところで、モノにあふれた欧米文化を拒絶し、自然との調和を図りながら質素に暮らす誇り高き人たちからすれば、いまの日本や世界はどう見えるだろうか。おそらく、「やはり、あいつらは野蛮人だな」と哀れんでいることだろう。

(2016年10月27日)



高江ヘリパッド問題(Wikipedia)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/高江ヘリパッド問題
土人(Wikipedia)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/土人
機動隊 土人(Google ニュース検索)
 https://www.google.co.jp/search?&q=機動隊 土人&newwindow=1&tbm=nws

戻る このページのトップへ