都構想議論が再燃
大阪市の説明会に大阪府知事が出てくる不可思議さ
吉富 有治
大阪市を残したまま現在の24区を総合区にするのか。それとも大阪市を廃止して代わりに特別区を設置するのか。いわゆる大阪都構想の是非を問う昨年5月17日の住民投票から約1年3か月。大阪市では今また、このような議論が再燃している。
2014年の地方自治法改正により、全国の政令市は2016年度から行政区を総合区に変更することが可能になった。この総合区は現在の行政区とは異なり、区独自の予算編成や施策が大幅に可能となり、また総合区長も本庁からの役人ではなく、議会の同意が必要ながら民間からでも市長が推薦する人物が就けるようになった。そのため行政区に比べて独立した自治体に近くなり、より住民に近い存在になるだろうといわれている。
いわゆる都構想の反対派は、この総合区が都構想の対案であると位置づけ、公明党大阪市議団などは独自の総合区案を策定して吉村洋文大阪市長に示し、初期コストが膨大となる特別区よりもこちらを推進するように求めている。一方、大阪市は8月末から来年2月までの期間、大阪市内の全24区で住民説明会を開き、総合区と特別区、どちらが大阪市にメリットがあるのかを住民から直接聞くとしている。どちらを選ぶかについて吉村市長は、最終的に住民投票で決めるとしており、この住民説明会はそのための布石でもある。
さて、8月31日に大阪市此花区で開かれた住民説明会には約230人の区民が参加し、担当者の説明に熱心に耳を傾けていた。この住民説明会には大阪府の松井一郎知事が参加しており、以降の説明会にも参加するという。
だが、24の行政区を総合区に変更するか、それとも大阪市を廃止して特別区を新たに置くかは、そもそも大阪市固有の問題であり、本来なら大阪府がしゃしゃり出てくる幕はない。さらに言えば、この住民説明会は総合区と特別区の優劣比較ではなく各制度の客観的な説明のはずである。どちらが優れ、どちらが劣っているという価値判断を含む主張に陥れば、大阪市は大阪維新の会の政治的公約に加担することになり、行政みずから政治的中立性を破ることになってしまう。それに第一、そもそも松井知事は都構想推進の筆頭であり、その府知事が総合区と特別区を客観的に説明できるのかという懸念もある。
逆を考えればいい。たとえば、都構想に反対する府知事と大阪市長が会場のひな壇に座って総合区と特別区を偏りなく説明できるのだろうか。無意識のうちに特別区をネガティブな方向にもっていかないのか。そう考えると、推進派のトップ2名が居並ぶ説明会で公平性・中立性が担保できるとは到底思えない。
その懸念は的中した。8月31日の住民説明会に参加者からの質問に答える形で参加した松井知事は、「総合区では二重行政は解消できない」と答える始末。いわゆる都構想によって大阪の成長戦略や住民に近い基礎自治体ができるのかといった主張と同じく、大阪府・市の二重行政の解消についても推進派と反対派とで互いの主張がぶつかり合ってきた、まさにど真ん中の政治的主張にほかならない。そもそも、その二重行政の定義すら明らかにしないまま「解消できない」と"説明"する時点で、これはあからさまな印象操作だと言われても仕方がないだろう。
いったい何のために松井知事は住民説明会に参加しているのか。特別区を肯定的にとらえる空気を作為的に作るためなのか。実際、此花区の説明会の言動をみればそう思われても無理はない。もし「都構想は優れた制度、特別区は住民に近い基礎自治体だ」という政治的主張がしたいのなら、公金を使わずに維新の会が主催すれば済む話だろう。
そのような不信や疑惑を招かないためにも府知事は今後、住民説明会に出席すべきではないと考える。総合区か特別区かの説明だけなら、すべて役人に任せておけばいいのだ。
(2016年9月1日)
大阪都構想(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/大阪都構想
大阪都構想(Yahoo!ニュース検索)
http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪都構想
都構想+総合区(Google 検索)
https://www.google.co.jp/search?q=都構想 総合区