国も地方も政治家の不祥事だらけ
〜 『こんなことくらい』と甘く考える心が隙を生む 〜
吉富 有治
国会では甘利明前経済再生相(66)による口利き疑惑や、イクメン議員こと宮崎謙介衆議員(35)の不倫問題で国民の政治不信はますます膨らみそうな気配である。一方、地方に目を向けてみると、こちらも国会議員に負けず劣らず不祥事のオンパレードが続いている。
舞台は大阪府の堺市議会。疑惑が持たれているのは元テレビリポーターで大阪維新の会に所属する小林由佳市議(38)である。小林市議は2011年から4年間、議会報告用のチラシを毎回7万枚印刷し、堺市内の住宅などに配布したとしていた。この費用は政務活動費から支払われ、その金額は約1000万円にも上る。ところが市民の通報によって、これが真っ赤な嘘だと判明した。そんなチラシ、誰も見ていないのだ。
小林市議は「発注した印刷業者が精神疾患で、大半のビラを配布していなかった」「発注や支払いは秘書に任せていた」と弁明したが、こんな言い訳を信用しろという方が無理な話だろう。案の定、業を煮やした堺市議会は百条委員会を設置。堺市は今年1月27日、小林市議を詐欺罪などの容疑で大阪府警に刑事告訴し、2月8日に受理されて府警も情報収集など内偵捜査に入っている模様である。
かたや小林市議は政務活動費の一部、約416万円を堺市に返還し、自分が被害者だとして昨年12月、この業者を大阪府警に刑事告訴した。ただし、こちらの告訴状はいま現在、受理されていないようだ。
その百条委員会は真相の解明に迫ろうと2月12日、小林市議を証人尋問した。ところが、小林市議は返答に詰まると後方に控えている補佐人(弁護士)に「相談したい」とたびたび質疑を中断させ、「私自身の刑事訴追に関する恐れがあるので証言は控えたい」などとして、4時間以上にも及んだ委員会で真相が語られることは一切なかったのだ。ちなみに証言拒否の回数は計20回以上にも及んだ。
そもそも小林市議が証言拒否の根拠とした「刑事訴追」とは検察が起訴することである。小林市議の言葉を素直に解釈すれば、「刑事訴追に関する恐れがある」とは百条委員会での自分の証言によっては大阪地検が起訴して裁判になるかもしれず、それを避けるために証言を拒否したということなのだろう。言葉を変えると、百条委員会で下手な証言さえしなければ仮に大阪府警が送検しても地検は不起訴処分にするかもしれないという、いわば淡い期待のようなものが込められているとも言える。だが、今回のケースのような場合、地検が不起訴処分にする可能性はかなり低いのではないか。
大阪府警は今回、堺市の告訴状を受理したわけだが、受理するにあたっては大阪地検と事前に入念な打ち合わせをしているはずである。なぜなら小林市議は政令市の市議会議員であり、現・大阪府知事を代表とする政党に所属する議員だからだ。要は、地方の"大物"なのである。
捜査対象が政治家ともなると警察は捜査に慎重となり、通常、告訴状の受理にあたっては検察の指揮を仰ぐものである。逆に言うと、大阪府警が告訴状を受理したということは大阪地検のゴーサインが出たからであり、検察も起訴できると踏んだからだろう。こんなことは刑事裁判に慣れた弁護士ならわかっているはずで、そうであるならば小林市議が証言しようが拒否しようが、どう転んでも「刑事訴追の恐れ」はあるわけである。
だとすれば、百条委員会で小林市議が再三にわたって証言を拒否した本当の理由は何か。これは刑事訴追を恐れたからではなく、裁判での証言と百条委員会での証言が食い違うことで裁判官の心証が悪くなることを恐れたためではないか。むしろ起訴後の公判を考えての措置ではないのか。加えて百条委員会で嘘の答弁をすれば偽証罪にも問われることから、これ以上の罪を重ねることへの不安があったのかもしれない。私は小林市議と委員との煮え切らぬ質疑を聴きながら、頭の隅でこんなことを考えメモを取っていた。
さて、その小林市議を議会や百条委員会で攻める他会派の市議にも、まったく同じ構図の問題が噴出した。今度は自民党・市民クラブの平田大士(ひろし)市議(38)に政務活動費を使った架空ビラの疑惑が飛び出した。平田市議は2013年度から2014年度までの18カ月間、広報紙の印刷・配布代金として毎月7万7000円〜8万7800円、計145万円を政務活動費として計上していた。ところが市民の男性が地元の約100人に確認したところ、広報紙を見た人はいなかったというのである。
この男性は堺市に監査請求書を提出し、監査委員事務局もこの請求を受理するという。一方、平田市議は「基本的に架空のものはなかった」「けじめ」として印刷代や配布代、また携帯電話代など計199万円を堺市に返還することを決めたというが、これで疑惑が晴れたわけではない。この架空チラシが事実なら、本質的には小林由佳市議の疑惑と同じである。もし調査の結果、平田市議に公金詐取の疑いがあれば、堺市は同市議を詐欺罪などで刑事告訴すべきだろう。そうでなければ小林由佳市議への告訴との整合性が取れない。
また自民党堺市議団も臭いものにフタといった態度ではなく、不届きな議員には毅然とした態度を取る必要がある。そうでなければ、こちらも同じく、小林市議への追及姿勢との間で一貫性がなくなるからだ。
政治家は選挙での投票率の低さを嘆くが、そもそも有権者への政治不信を生んだのは誰なのか。「こんなことくらい」と甘く見る心が不祥事と政治不信を招くのだ。そんな心の隙はないのか。政治家1人ひとりが胸に手を当てて考えてもらいたい。
(2016年2月17日)
小林由佳(Google ニュース検索)
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平田大士(Google ニュース検索)
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<後を絶たない政務活動費問題>税金であることを忘れてはならない | 水野友貴(ハフィントンポスト)
http://www.huffingtonpost.jp/yuki-mizuno/political-activities-expense_b_7894552.html