連載「大阪ダブル選挙」その8
分析と総括
〜 自民の不甲斐なさと新市長のジレンマ 〜
吉富 有治
11月22日投開票の大阪ダブル選挙は大阪維新の会の松井一郎知事が再選を果たし、新人で前衆議院議員の吉村洋文さんが市長選に勝利、第20代大阪市長に就任する。自民党が推す栗原貴子さん(前自民党府議)、柳本顕さん(前自民党市議)の両候補を共に大差で破った。敗れた自民党は大阪府議団の花谷充愉府議が責任をとって幹事長を辞任すると発表。一方、菅義偉官房長官は24日、会見で「自民党の候補者を共産党が応援するとか、いろいろな現象の中で行われた選挙だが、そうした全体を考えた上で大阪の皆さんが決めたのだろう」と他人ごとのように述べ、あらため首相官邸と維新の会との親密さが浮き彫りになった。
さて、今回のダブル選挙をどう分析するかだが、維新の会が強すぎたというより自民党がだらしなさすぎたと私は考えている。その上で自民が負けた理由は大きく3つある。(1)優柔不断さから来るスタートの遅れ、(2)油断、(3)支持者離れである。
まず(1)のスタートの遅れとは、府知事選候補の栗原さんの擁立がギリギリまで決まらなかったことだ。松井知事と仲の良い菅官房長官らに気兼ねしてか、自民党本部も同党大阪府連も市長選さえ勝てばいいとして、本気で府知事選で勝利しようとは思わなかった節がある。官邸の顔色をうかがう優柔不断さが候補者選びの遅れを招いたようである。
どんな選挙でも現職が強いのは常識で、知名度がある松井知事に勝つには早めに候補者を選んで有権者に名前を知ってもらう努力が必要だったのに、それすら怠った。これが敗因の1つだろうと思う。
次に(2)の「油断」とは、柳本彰さんが候補者なら市長選は維新に勝てると思い込んだことである。5月17日の住民投票で橋下さんと論戦して互角以上に火花を散らし、男も知名度も上げた柳本さんなら勝てると思っていた。住民投票で都構想の反対派が勝利し、それが「市長選なら勝てる」という思い込みから油断を招いたのだ。その証拠に、11月22日にダブル選挙があるとわかっていたのに、住民投票後に維新政治の矛盾を衝くようなさらなる追撃は見られなかった。逆に大阪戦略調整会議(大阪会議)を維新から「ポンコツ」と罵られ、それを維新が広くPRすることで大阪府民、市民は自民党に失望。維新側の逆宣伝に自民党も有効な手を打てなかった。「ポンコツ」とこき下ろされるような大阪会議を不用意に議会提案したのも油断の現れだろう。
そして最後の(3)は、共産党が勝手連的に自民の候補を応援したことに、自民党の支持者が拒否反応を起こしたことである。「自民党と共産党なんて水と油なのに、なぜ“真っ赤”な政党から応援されないといけないのか」と反発する自民党支持者が増え、これに対する合理的な説明ができなかった。せいぜい「共産党の支援は受けていない」と言うのが精一杯。その結果、約3割から4割の自民党支持者の票が維新に流れてしまったのだ。
自民党は今回の大敗を真摯に受け止め、自らの戦術の未熟さを分析しなければ来年の参院選も苦しい戦いを強いられることだろう。
一方、勝利した維新の会である。こちらもダブル勝利で浮かれている場合ではない。前途多難な険しい道が潜んでいると思って間違いない。その一例を上げよう。
市長選に当選した維新の吉村洋文さんは会見で「今後は議会との合意形成を目指す」と宣言した。だが、これはある意味、「脱維新」のような印象を受ける。これまで橋下さんを含めて維新の議員は議会に対して「話し合いでは無理」と言い放ち、その言葉のとおり維新の政治の本質は合意形成などではなくパワーゲーム、つまり力でねじ伏せることだった。このような維新の体質から見て吉村さんの対話路線は従来の維新路線とは正反対なのである。
橋下さんや維新の会は議員定数の削減や報酬カットといった急進的な行政改革を推し進め、職員基本条例の制定などにより役所の職員も民間並みの厳しい規律を求めてきた。その改革の先にあるのは、いわゆる大阪都構想であることは言うまでもない。
しかし行政改革にしても都構想にしても議会の同意を得ることは非常に難しい。事実、都構想に限らず市営地下鉄の民営化や府立大学と市立大学の統合といった大きな改革ほど議会は猛反発してきた。こうなると維新の会が取るべき道は首長も議会も維新で固めるといった、半ば強引な手法に頼らざるをえないのだ。要は、目的達成のために黒を白にひっくり返すオセロゲームをやるしかない。
この戦略は必然的に周囲との軋轢を生む。政策や改革の中身にもよるが、実際、府議会や市議会で維新と他会派が対立する場面は何度もあった。府市の議員の代表が集まって都構想の制度設計を担う法定協議会から昨年6月、自民や共産など非維新会派を追い出したのも維新の政治手法から言えば当然の帰結なのである。
さて、「議会との合意形成」を主張する吉村さんはどこまで本気なのだろうか。おそらく本心からそう望んでいると思うのだが、それでも吉村さんがあくまでも他会派との合意形成を目指していくと政策によっては議論の途中で他会派との話し合いが中断、決裂する場面に出くわすことだろう。そうなると、これまで押し相撲の力づく政治を押し進めてきた維新の会が、いずれしびれを切らす。「吉村市長は生ぬるい」といった文句が出るかもしれない。それでも吉村さんは合意形成を目指すのか、それとも維新に配慮して以前のパワーゲームに戻るのだろうか。そのうち「生きるべきか死ぬべきか」のハムレットのような心境に吉村さんは陥るのではないかと予想する。
橋下徹市長が去ったあとの大阪市。新市長となる吉村さんは果たして橋下政治を乗り越えられるのか、それとも結局は維新のロボットなのかが試される4年間になるだろう。
(2015年11月27日)
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「大阪 選挙」の検索結果(Yahoo!ニュース 検索)
http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪+選挙
大阪維新の会(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/大阪維新の会
吉村洋文(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/吉村洋文