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連載「大阪ダブル選挙」その7
「決められる政治」は本当か

吉富 有治
大阪
 大阪ダブル選挙で再選を目指す松井一郎大阪府知事が自民党府議団を飛び出して「自民党・維新の会」という少数会派を立ち上げたのは2009年4月のことだった。きっかけは、大阪市の負の遺産である旧WTCビル(現大阪府咲洲庁舎、大阪市住之江区)を大阪府の橋下徹知事(当時)が買い取ると言ったことに対して同府議団が猛反対、府議会で否決されたからだった。

 当時は府議だった松井さんは橋下知事の意見と同じで、WTCビルを買い取るべきというスタンス。ところが自民党府議団では大半が買い取りや府庁舎(大阪市中央区)の移転に反対で、多くが「大阪府庁は大阪城が見える場所やないとあかん」と思っていた。ビルは大阪湾沿いの埋立地にあるため大震災が襲えば周囲の土地は液状化現象が起こって道路が通行できなくなると主張する議員もいた。この"保守的"な態度に腹を立てた松井さんら当選1、2期の議員6名が自民党府議団を抜けて新会派を立ち上げたのである。

 その後、橋下知事は同じ提案を議会に提案したものの議会は買い取りまでは認めるが、府庁舎としての移転は反対という玉虫色の判断を下し、今度はこれに愛想を尽かした浅田均府議(現大阪維新の会政調会長)ら数名が自民党府議団を割って出て松井府議らと合流した経緯があった。


 大阪維新の会のスローガンは「決められる政治」である。選挙戦でも大阪維新の会の候補は「決められる政治」の実現を訴えている。このスローガンができあがった背景には、おそらく松井さんや浅田さんらが自民党府議団の内部で「決められない政治」を体験したからだと私は想像している。当時の自民党府議団は49名を占める議会の最大会派。因習に縛られ、垢がこびりついた古狸ばかりいる政党では何も決められない。だったら俺たちが新党を立ち上げて現状を打ち破ると松井さんたちは考えたのかもしれない。

 もっとも、大阪府は旧WTCビルを買い取ったはいいが、反対した議員の不安が的中。2011年3月に発生した東日本大震災では関西で唯一、大きな被害を受け安全に問題がある欠陥ビルとの烙印を押されてしまった。大阪府庁が移転すればペンペン草が生えていたビル周辺の開発や企業誘致も進むとされていたがその気配もない。大阪府庁の一部機能と約2000人の職員を移したものの、ビル全体ではテナントの約4割が埋まっていない。府庁舎の完全移転も不透明で、大阪府は現在2つの府庁舎を持つことから、他会派からは「二重行政どころか二重庁舎すら解決できない維新の会だ」と批判を浴びている。

 このような現状を考えると、当時の松井さんにすれば旧WTCビルに関しては「決められない政治」を貫いた方がベターだったのかもしれない。

 それでも大阪維新の会は「決められる政治」がよほどお気に入りのようで、選挙戦でも相も変わらずこのフレーズを繰り返し連呼している。「維新の候補が落選すると、また『決められない政治』に逆戻りする」と叫び、聞く者も「うんうん、その通り」とうなずいている。しかし、仮に維新の候補がダブルで当選したところで「決められる政治」は必ずしも実現できるわけではない。その第一の理由は議会構成にある。

 現在、府知事と市長は共に大阪維新の会。だが府議会、市議会とも維新は第一党とはいえ、いずれも単独過半数を満たさないので非維新会派の反対に遇えば政策や提案は通らない。典型例が大阪市交通局、市水道局の民営化、また大阪府大と大阪市大の統合だろう。いまでも「決められない政治」のままなのだ。

 「いや、松井知事と橋下市長がいるおかげで信用保証協会など、いくつかの府市団体の統合が進んだ」という反論が出そうだが、それなら非維新の候補がダブルで当選しても同じだろう。むしろ非維新の会派が議会で過半数を占めているので政策や提言が通る可能性はよほど高い。

 「決められる政治」が困難なもう1つの理由は地方議会の最大の特徴である二元代表制にある。地方政治では知事や市長が選挙で選ばれたのなら議員も同じく選挙で選ばれ、ともに民意を代表している。首長と議会は対等の関係にあり、これが国政の議院内閣制と根本的に異なっている。行政が決めた予算と決算、政策を議会がチェックし、巨大な権限を持つ役所のやりたい放題を防ぐのが二元代表制の役割である。そのため地方政治には本来、与党も野党もない。


 大阪維新の会が主張するように「決められる政治」を実現しようと思えば、府知事や市長の提言や政策を議会が丸呑みしなければならない。かつての大阪府議会がそうであったように大阪維新の会が議会で単独過半数を有し、なおかつ国政のような与党意識を持てば、なるほど行政の思うとおりに進むだろう。与党会派が首長の命令通りに動けば「決められる政治」は実現する。だが、これは言葉を変えれば行政と議会の一体化を目指すものであり二元代表制を否定するものでしかない。議会がチェック機能を果たさなければいずれ行政の暴走を許すことにもなりかねない。

 行政と議会が緊張関係を保ちながら侃々諤々(かんかんがくがく)と議論し、着地点を見いだす。これが本来の地方政治のあり方であり、むしろ「なかなか決められない政治」くらいの方がよほど健全なのである。

(2015年11月17日掲載)



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「大阪 選挙」の検索結果(Yahoo!ニュース 検索)
 http://news.search.yahoo.co.jp/search?p=大阪+選挙
大阪府咲洲庁舎(Wikipedia)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/大阪府咲洲庁舎
大阪維新の会(Wikipedia)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/大阪維新の会

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