それは本当の話で新刊本の序章にも記してあります。それまで直接面識のなかった橋下さんと仲良くさせたもらったのは「じんさん」のおかげでした。じんさんから「今度、3人でメシ食べへんか」という連絡があり、3人で食事をしながら大阪のあれこれを語ったものでした。そのじんさんは、「100回生まれ変わっても、俺の友だちが知事と市長ということはあり得んわ」と喜んでいたものです。それがきっかけで、3人で食事をする機会が増えたのです。
はい、それ以降は全然なかったですね。じんさんとはイベントでお会いしましたが、「またメシ食べよな」と言われたものの、それが実現することは二度となかったです。また、じんさんは大阪で音楽ホールの建設を強く望まれていて、橋下さんは軽いノリで「やりましょうよ。お金は民間から集めましょう」と言っていた。ですが、市民と向き合う直接行政を預かる私とすれば、「はて、建設場所はどこにするのだ」とか「予算はどこから引っ張ろうか」とか、そんな不安ばかりが頭によぎりました。また、ハコモノ行政の批判が全国的に広がっている時期でもあったので、現実問題、安易には賛成できなかったわけで、橋下さんのように軽いノリの返事にはなれませんでした。まあ、そんなやり取りも懐かしい話ですね。
「突破力」「発信力」「こんな政治家はいなかった」ということでしょうか。ある意味、常識にこだわらない政治家。それが良い方向へ転がればいいのですが、880万人の府民の暮らしを預かる府知事であるだけに、間違った方向に突っ走れば誰に責任を追うのだろうという心配がありました。文化行政については特にそうでしたね。確か2008年5月だったと思いますが、橋下さんと大阪市役所で文化の話をオープンで討論したことがありました。人気のない文化は廃れていくもんだというのが橋下さんの持論。これは新聞でも文化論争という見出しにもなりました。
実は私も市長に就任するまで文楽を見たことがなかったのです。それだけに最初に見た衝撃は大きかった。2008年1月、大阪にある国立文楽劇場(大阪市中央区)の新春公演で鏡開きがあり、私も大阪市長として道行く人にふるまい酒を注がせてもらいました。その私の横には文楽人形がお酒を振る舞っているのですが、これが300年続いた伝統芸の凄さというのか、まるで真横に人間がいるかのような存在感を感じました。文楽は歌舞伎の梨園と違って一般の人でも研修によって文楽の仕事ができる世界です。大阪北部にある能勢(大阪府能勢町)にも人形浄瑠璃はありますが、文楽を含めて大阪でこんな素晴らしい伝統文化が育ってきたということを市民にもわかってもらいたいです。ただ、だからといって大阪市の財政からいって全力を挙げて文楽に税金を注ぎ込むということはできない。一方、大阪府の橋下さんはあれもこれもは「削る」と言っていた。そんな中にあって少なくとも大阪市は「いまの状態をキープする」。あるいは「いまあるものを売り飛ばす」のではなく、きちんと評価して将来の大阪につなげていく。そのための努力は職員と一緒に考えてきました。
それは一部メディアを中心とする勢力が言い続けていることで、それに洗脳された人たちがいるのはとても残念です。では、私が市長として働いた4年間で労組に便宜をはかった事実、言いなりになった事実があれば具体的に挙げてもらいたい。言っておきますが、1つもないですよ。私の前の市長である関淳一さんも出直し選挙後は賃金カットなどの労組改革を実行。私も賃金カットはもちろん、様々な改革を続けてきました。私は民主党の支援を受け市長に当選したのは事実です。完全に手を切った関市長に比べて労組との関係は良好だったかもしれない。だからといって便宜を図ったことなど一度もありませんし、逆に労組幹部から「あのときの賃金カットは一番つらかった」と言われたくらいです。
市民のために大阪を良くする。そのためにご自分の判断で動けるような市長になってもらいたい。平松市政を真似しろとか、市民協働をやれなんて絶対に言いません。ただ、橋下市政後の大阪市が負った傷の手当は大変だと思います。その修復さえ終われば柳本さんの人柄と能力なら大阪市を良くすることができるでしょう。とにかく市長になれば、いろんなことを言ってくる人間が山ほど現れる。そんな雑音に構うことなく、自分のやりたいことを早く見つけることです。「この分野ならこの人に」と、仕事を任せられる参謀を早く見つけることです。
もしかすると11月22日のダブル選挙は日本の政治を変えるかもしれません。その信念で私も行動していますし、大阪自民党が本気で維新を打ち砕けば大阪から関西を、また日本を変えられると思っています。その選挙が終わったあとですが、これがわからないのです(笑)。11月22日が私の活動の最後かもしれません。いまは何も考えないようにしています。ひょっとすると田舎に引っ込んで野菜を作っているかもしれませんね(笑)。